Picture Power

人間と自然が再びつながるビル緑化

RECONNECTING TO NATURE

Photographs by BRAD TEMKIN

人間と自然が再びつながるビル緑化

RECONNECTING TO NATURE

Photographs by BRAD TEMKIN

ルーリー小児病院(シカゴ、12年5月)

 技術の進歩は自然に対抗するものと、長らく考えられてきた。照明でも冷蔵庫でもエレベーターでも、開発の原動力は自然の限界を乗り越え、自然に打ち勝つこと。コンクリートや鉄、ガラスを使った建築は、人間と自然の分離に美しさを見いだした。

 しかしこれと反対に、近年では建築物の屋根や壁に自然の要素を組み入れることが1つの潮流になってきた。アメリカなどでも屋上の緑化は新たな景観として存在感を見せ始めている。

 写真家ブラッド・テムキンは、各地に広がるそんな緑化の光景をカメラに収めた。見えてくるのは環境に対する人々の関心と、再び自然とつながりたいという欲求だ。

 そこからは秩序と普遍性、自然への支配欲に駆られた人間の介入といった、より大きな意味も伝わってくる。同時に、ディストピア的なムードも感じられるだろう。アスファルトの裂け目から出てきた雑草、人間が地球を立ち去った後の将来の廃墟の叫びといったイメージだ。

 テムキンは、建築表現の大きな変化を見事に捉えたと言える。それは自然と人間が同じくらい寄与できる芸術。建築物は人間と自然との対立から生まれるという過去の伝統とは一線を画している。


撮影:ブラッド・テムキン
1956年アメリカ生まれ。人為的な影響を受けた風景をテーマに撮影を続け、作品は主にアメリカの美術館に所蔵されている。シカゴのコロンビア・カレッジなどで写真を教えている。本作は写真集『ルーフトップ』(米ラディウス・ブック刊)からの抜粋

Photographs by Brad Temkin

<本誌2016年7月12日号掲載>


【お知らせ】

『TEN YEARS OF PICTURE POWER 写真の力』

PPbook.jpg本誌に連載中の写真で世界を伝える「Picture Power」が、お陰様で連載10年を迎え1冊の本になりました。厳選した傑作25作品と、10年間に掲載した全482本の記録です。

スタンリー・グリーン/ ゲイリー・ナイト/パオロ・ペレグリン/本城直季/マーカス・ブリースデール/カイ・ウィーデンホッファー/クリス・ホンドロス/新井 卓/ティム・ヘザーリントン/リチャード・モス/岡原功祐/ゲーリー・コロナド/アリクサンドラ・ファツィーナ/ジム・ゴールドバーグ/Q・サカマキ/東川哲也/シャノン・ジェンセン/マーティン・ローマー/ギヨーム・エルボ/ジェローム・ディレイ/アンドルー・テスタ/パオロ・ウッズ/レアケ・ポッセルト/ダイナ・リトブスキー/ガイ・マーチン

新聞、ラジオ、写真誌などでも取り上げていただき、好評発売中です。


MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中