コラム

プリゴジン「反乱」で、ロシアは反撃の大チャンスを失った...見えてきたウクライナ「終戦」の形とは

2023年07月12日(水)18時19分
ウクライナ軍の兵士

ウクライナ軍の反転攻勢は成功するのか(同国南部での演習、3月) MUHAMMED ENES YILDIRIMーANADOLU AGENCY/GETTY IMAGES

<極右・ネオコン・利権が原因で始まった侵攻は、プリゴジンの乱が呼び水となり終わるかもしれない。本誌「世界の火薬庫」特集より>

帝国の崩壊は古来、無数の紛争地帯を生み出してきた。強い力の抑えがなくなると、以前からの対立が諸方で噴き出す。ソ連の場合(1991年崩壊)も周縁地域でいくつも紛争が起きたが、ロシアはその失った領域の回復に乗り出して、自ら紛争の種となっている。

それが今のウクライナ戦争だ。昨年2月のロシア軍の侵攻と戦線膠着、今年6月初めからのウクライナ軍の反転攻勢とその挫折と推移して、今また6月23日に起きた民間軍事会社ワグネルの「反乱」で、戦争はロシア自身の安定性を揺るがすものに転化した。ソ連崩壊というビッグバンはロシア自身をも分裂させるのだろうか? まずウクライナ戦争はどうして起きたのか、から話を始めよう。

ウクライナ戦争においては、もちろん他国に軍隊で侵入したロシアが悪い。一方、ロシアを軍事行動に追い込んだいくつかの勢力もある。これらを明るみに出しその力を調べておかないと、戦争は再発するだろう。

まず、ウクライナの過激右派の存在がある。実体は流動的で不透明なのだが、彼らは2013年末に起きたリベラル・インテリたちの反政府運動を奪い、14年2月にはビクトル・ヤヌコビッチ大統領を国外へ追放して、体制の転覆を実現してしまう。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、過激右派の背後にはアメリカがおり、彼らはクリミアのロシア海軍の租借地の制圧に向かってくるだろうとして、クリミアと東ウクライナの一部の占領に及んだ。

その後のペトロ・ポロシェンコ政権はロシアと手を握ろうとしたが、過激右派からの圧力で断念。ウクライナ軍の強化に乗り出す。19年大統領で当選したウォロディミル・ゼレンスキーも対ロ関係の早期打開に乗り出そうとしたが、過激右派からの締め付けで断念。今日に至っている。

過激右派はナショナリストで、ロシアにもアメリカにもなびかない。明確な統一組織、一貫した戦略も持っていない。しかし、昨年5月に陥落した東部マリウポリでのように、普通の市民も自殺的戦闘に引き込む。

次にアメリカのネオコン勢力がいる。自由と民主主義を広めることで途上国を幸せにできると称する人たちで、途上国の反政府勢力を支援して政府を転覆させる「レジーム・チェンジ」を活動の柱とする。彼らは、ウクライナで13年秋に起きた反政府運動を支援していた。

ネオコンは今ではまとまりを欠くが、米国の圧倒的な力を頼んで、外国を「改造」しようとする者は後を絶たない。これは当然、その国の反発を招き、紛争をあおる。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

パキスタンとアフガン、即時停戦に合意

ワールド

台湾国民党、新主席に鄭麗文氏 防衛費増額に反対

ビジネス

テスラ・ネットフリックス決算やCPIに注目=今週の

ワールド

米財務長官、中国副首相とマレーシアで会談へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「実は避けるべき」一品とは?
  • 4
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 5
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 6
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 7
    自重筋トレの王者「マッスルアップ」とは?...瞬発力…
  • 8
    「中国は危険」から「中国かっこいい」へ──ベトナム…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 9
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 10
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story