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アングル:デフレ下で価格競争激化、中国の飲食店に大倒産時代

2025年03月24日(月)15時25分

 3月21日、中国の首都北京の郊外にある荒れ果てた倉庫で、中古厨房機器の販売業を手がけるアン・ダウェイさん(38)は飲食店向けの巨大な冷蔵庫と業務用コンロ、パン焼きオーブンの列を点検していた。写真は2月、閉店した北京の飲食店から厨房機材を回収するアンさんのチーム(2025年 ロイター/Tingshu Wang)

Laurie Chen Tingshu Wang Xiaoyu Yin

[北京 21日 ロイター] - 中国の首都北京の郊外にある荒れ果てた倉庫で、中古厨房機器の販売業を手がけるアン・ダウェイさん(38)は飲食店向けの巨大な冷蔵庫と業務用コンロ、パン焼きオーブンの列を点検していた。

こうした機材一つ一つの背景に、倒産した飲食店の存在がある。アンさんは「一般人が飲食店を開くことは、ほとんど失敗が約束されたようなものだ」と話した。

新型コロナウイルス禍後のV字型の景気回復に賭けていた人たちは、中国の景気減速と消費者の外食離れを目の当たりにしている。その結果、1杯のコーヒーが9.9元(約200円)、4人前の定食が99元といった価格競争が起きている。

中国の指導部は内需拡大を今年の最優先事項としており、それによって米国による中国からの輸入品の関税引き上げと、長引く不動産危機の影響を相殺しようとしている。

しかし、2月の中国の消費者物価指数(CPI)は昨年1月以来のマイナスとなり、デフレスパイラルへの懸念を呼び起こした。

昨年、アンさんらのチームは24年に毎月200軒の飲食店を解体し、前年と比べて3.7倍のペースとなった。中国の企業情報サイト、企査査のデータによると、24年に廃業した宅配企業は300万件弱と過去最高になった。

アンさんは「北京、上海、広州、深センのような一線都市では飲食店の毎月の閉店率が10%を超え、15%を超える時もある」と指摘する。

北京のあちこちで、アンさんらのチームは閉店した飲食店からいすやオーブン、保管庫、調理用の台車を積み上げ、フォークリフトを使って一部を車両に積んで運び出した。現場の1つでは、購入者がテーブルを運び出した。

アンさんは24年の売上高が前年より2割超減ったと説明する。ドリンクショップやベーカリーといった設備投資が少なくて済むような小規模で、経費のかからない店舗が開店する割合が高まったからだ。

北京の五輪公園近くの閑散としたモールで、パン店チェーンのフランチャイズ店の元経営者は1年2カ月で店を畳むことになった理由は月5万元(6900ドル)という高い賃料と、人通りの少なさのせいだったと嘆く。

元経営者は「隣に似たような商品を扱う店があり、味は劣るものの10元安い。通常の人たちは基本的に安い方を買う」とし、「みんなお金がないんです。あるいはあったとしても、以前のようにお金を使いたがらない」と語った。

<悪循環>

アナリストらによると、中国の飲食店の「平均寿命」はわずか500日程度で、北京では1年に過ぎない。自治体の統計によると、北京の飲食店の2024年上半期の利益は前年同期より88%減った。

アンさんは激烈な価格競争と、飽きた顧客を引き付けるためにメニューを絶えず変えないといけない中で、多くの店が生き残りに苦労していると指摘。多くの店が客1人当たり約70―80元にまでコストを削減せざるを得なくなっていると明らかにした。

中国の国会に相当する全国人民代表大会(全人代)が3月に開かれ、過当競争を取り締まるとの方針を確認した。飲食店業界は過当競争の問題が最も目につく分野の1つだ。

24年には多くの飲食店が廃業し、中国の飲食業界の売上高は前年比5.3%増と、伸び率が前年の20.4%から大幅に鈍化した。生き残った飲食店は、事業継続のために利益率を大幅に切り詰めなければならなかった。

アンさんは価格競争が激化した理由について、中国が新型コロナ禍の規制を解除した23年にさかのぼるとした。不動産や教育、金融、ハイテクなどの業界が従業員を大量に解雇し、外食産業への新規参入として流れ込んだと解説した。

アンさんは競争の悪循環が最終的に消費者に跳ね返るとし、その要因として「(飲食店は)赤字を出せない状況に追い込まれると、利益を上げる方法を見つけ出すことになる。その方法は原材料の質を低下させるしかない」と語った。

ロイター
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