アステイオン

対談

イギリス王室は日本の皇室とは何が違うのか?...戴冠式の宗教的意味から考える

2025年05月07日(水)11時00分
君塚直隆+佐伯順子(構成:置塩 文)

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チャールズ国王の塗油(アノインティング・anointing)の儀式 Yui Mok/Pool via REUTERS

君塚 スクリーンの陰で行なわれましたね。カンタベリー大主教から「塗油」を受ける際に演奏される曲が「祭司ザドク」です。

これは、祭司ザドクがソロモンに塗油の儀式を施したという旧約聖書の中のエピソードをモチーフにしたもので、ドイツからイギリスに渡ったヘンデルが1727年のジョージ2世の戴冠式のために作曲しました。それ以後の戴冠式では必ずこの曲が演奏され、ソロモン以来のキリスト教を強調するのです。

佐伯 私も、ケンブリッジで聴いた戴冠式関連のコンサートで、ヘンデルの重厚な音楽に圧倒されました。

ウェストミンスター修道院でカンタベリー大主教が行なう戴冠式で、チャールズ3世はソロモン王のレガシーを継承するのですから、国王は政治的権力はなく、民主主義国家、近代国家としての政教分離的な理想も掲げられる。

一方で、宗教というメンタリティの面で、国王はやはり重要な存在感を示しているように思います。

イギリスの多くの教会で「ソロモンの時代から......」というお説教を聞き、荘厳な音楽を聴くという経験を通じて、ユナイテッド・キングダム(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)としての一体感が現代社会にも醸成されている、心身に響く形で、王権を維持する力になっていると感じました。

後編】「失敗」からすぐに学んだエリザベス女王...「イギリス王室の生命力」とは? に続く。


君塚直隆(Naotaka Kimizuka)
1967年生まれ。駒澤大学法学部政治学科教授。専門は近代イギリス政治外交史。著書に『立憲君主制の現在』(新潮社、サントリー学芸賞)など多数。

佐伯順子(Junko Saeki)
東京都生まれ。同志社大学大学院社会学研究科メディア学専攻教授。専門は比較文化。著書に『「色」と「愛」の比較文化史』(岩波書店、サントリー学芸賞)など多数。


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 『アステイオン』101号
 公益財団法人サントリー文化財団・アステイオン編集委員会[編]
 CCCメディアハウス[刊]
 

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