佐伯 島国であることと並んで王室が存在することで、日英両国は似ていると一般に言われがちですが、歴史的、文化的背景にはかなりの相違もあると思います。
イギリスと日本との共通点と相違点について、ご専門の見地からいかがお考えでしょうか。
君塚 両国は確かにユーラシア大陸の西と東の端の島国ですが、イギリスと大陸間に横たわるドーバー海峡の最短距離は33キロ、潮流もそれほど激しくなく、19世紀に泳いで渡った人がいるほどの近さです。
それに対して日本と大陸の間の対馬海峡は200キロ、ましてや日本海のあの荒波です。イギリスの大陸との距離は日本のそれよりも圧倒的に近いと言えますね。
また、イギリスの王室は近隣王家とのあいだに政略結婚による血縁関係があります。対して日本の天皇家は、中国やアジア諸国の王家と姻戚関係を結ぶことはほとんどありません。
背景には宗教の問題があると思います。1517年に始まる宗教改革までは西欧ではキリスト教は1つでした。他方、アジアの王家は儒教、仏教、あるいはイスラームなどですから、神道の日本が血縁関係を結ぶのは難しかったと思います。
このように、イギリスの王室と日本の皇室は、大陸との地理的・心理的距離感という点では大きく異なっています。
逆に、ヨーロッパの王様と日本の天皇には共通点もあります。古代においてはシャーマン的かつファイター的な存在であったということです。
しかし、日本は、ファイターからシャーマンへの重点の移行がヨーロッパに比べて早いですね。古代律令制が確立されたのちに、天皇をはじめ、公卿と呼ばれる高位の貴族が政治に携わりますが、12世紀後半から武家に実権を握られ、天皇自ら兵を率いることもなくなります。
同じ頃、ヨーロッパでは王様同士が激しい領土争いを繰り広げ、12世紀後半にはイングランドのヘンリー2世は今のフランスの西半分を支配していますから、この段階で既にイギリスの王室と日本の皇室とでは色合いがかなり異なっています。