土居 科学技術社会論がご専門の横山先生から見て、いかがでしょうか。
横山 大竹先生が、医療関係者と経済学者という異なる専門家の間で基本的な方針の共有そのものが難しかったとお話しされましたが、こういうことは往々にして起こっています。実は同じようなことが、東日本大震災のときにも低線量被曝の議論でありました。
議論は複雑ですが、非常に単純化すれば、一部の科学者たちは被曝量そのものがそれほど高くないから問題ない、と考えるのに対して、別の科学者集団は、不必要な被曝を強いられることは、影響に関わらず人権に関わる問題であるとしました。そのため、この2つの領域がなかなか合意するに至らなかったのです。
土居 なるほど、東日本大震災の時にも同様のことがあったのですね。
横山 また、先ほど大竹先生が言及された、「人間は非合理であって行動制限をしないと出回ってしまう」という医療関係者の発想は、少し気になりました。
これは市民に知識がないことを前提にしており、こうした発想は我々の領域で「欠如モデル」と呼ばれています。危機時に市民がパニックを起こすのではないかと恐れ、エリート自身がパニックを起こすエリート・パニックにも通じています。
また、「作動中の科学」という言葉があります。科学は変わっていくものである。だから、対策もどんどん変わるのだということを、刻々と見せていくしかありません。
土居 なるほど。では、リアルタイムの分析や情報発信が重要ということですね。
横山 将来的には、重複的にチェック体制ができることが、医療界をも含めて重要だと思います。ですから、学会でネットワークを作るのは、とてもよいことだと思います。シンクタンクなどとも組んで、1つの計算に複数チームを作るという方法もいいかもしれません。
土居 では、伊藤先生のお話についてはいかがでしょうか?
横山 特に医療系データはプライバシーの問題があって難しいということですが、社会全体のことを考えて、政府もこの点については変えていかなければいけないと思います。そして、それは経済のみならず、法学などさまざまな領域の研究者との交流も必要になると思います。
土居 分野横断的な議論が、これからさらに深まるということを期待したいですね。
土居 コロナ禍が終わった現在、専門知から見ると正しくない情報がインターネット上などで、さまざまな形で流布されています。これに対して専門家はどう接していくかについて、横山先生にお伺いできますでしょうか。
横山 やはり普段から専門家の信頼を注意深くケアしておく必要があります。日本の専門家は、経済学をはじめ、医療関係者も非常に高い信頼を得ています。我々のパンデミック中の2回の調査結果によると、専門家の信頼はそれほど下がらずに担保できていることが判明しています。