大竹 また、専門知での貢献に関して言うと、コロナ禍ではどんどん事態が変わるため、時間的制約がありました。リアルタイムでどのように分析をし、その時々にどういった提言をしていくのかの見極めも必要でした。
しかし、私たち経済学者はそういった形での政策提言を普段は行なっていません。
土居 そうですね。経済学者は理系研究者のように多くの研究スタッフを抱えて研究室単位で研究するということはあまりなく、1人ないしは、数人で研究することが一般的です。
大竹 ですから研究スタイルを変えて、今すぐに必要とされる情報を伝えていくことが大事でした。
そんな中、シミュレーションを毎週のように発表された東京大学の仲田泰祐さんは、アメリカの中央銀行での経験もおありだったこともあり、時間的制約を意識した形でリアルタイムの分析や情報発信をされていました。
土居 そういった研究スタイルの違いや情報発信について、何か議論はあったのでしょうか。
大竹 分科会での意見書を準備する際に、仲田さんや慶應義塾大学の小林慶一郎さん、東京大学の岩本康志さんらと定期的に議論はしました。
しかし、基本的に経済学の研究は1人でやらなくてはいけません。そのため、ネットワークをどれだけつくれるのかということが大事である、という議論はしました。ですから学会レベルでネットワークを形成していくというのが1つの対応方法だと思います。
もう1つは、たとえば内閣府の研究所で経済学関係のシミュレーションをもっとやっていれば...とは思いました。政府が民間シンクタンクと契約をする方法もあると思います。
土居 ありがとうございます。それでは、伊藤先生は情報発信について何か感じられたことなどありましたでしょうか。
伊藤 医療データの利用制約が非常に厳しかったことが挙げられます。私たちは、各病院が病床を何日に何床確保して、補助金は幾らだったのかという調査のために都道府県に情報開示請求しました。
ところが、いくつかの県で開示請求が拒否されてしまいました。医療機関から報告を受けた情報を開示すると風評被害につながる可能性があり、また報告内容は非公開という前提で医療機関から収集しているため、第三者には提供できないという理由でした。
土居 それはコロナ禍が終わって一段落した2024年の段階でもですか。
伊藤 はい。ですから、事後検証もできないのです。病床の情報を提供することが、なぜ風評被害になるのか。どうしてこのような開示の仕組みになってしまったかと思っています。