[東京 14日 ロイター] - ドル/円<JPY=EBS>の上値が重くなってきた。内閣官房参与の浜田宏一・米エール大学名誉教授が購買力平価からみた水準として105円に言及。足元の119円─120円からみてかなり円高な水準であるため、安倍晋三政権の円安けん制姿勢を映したのではないかとの思惑も浮上した。
ただ、日米金融政策の方向性に着目した円安観測は根強く、当面は2つの見方の力比べの展開になりそうだ。
<長期的な「物差し」>
浜田教授は、13日のBSフジのプライムニュースで、購買力平価からすると「120円はかなり円安、105円ぐらい」との見方を示した。市場は当初、同発言に反応薄だったが、同発言が英文で伝わると、海外投機筋を中心にドル売りに拍車がかかり、ドル/円はそれまでの120円後半から119円台後半まで下落した。
購買力平価は、2国間の同一商品の価格を比べることで、算出される為替(交換)レート。ある商品が日本では200円、米国では2ドルで買えるとすると、1ドル100円が購買力平価になる。実際の為替レートが1ドル150円とすれば、購買力平価に対し円安方向にかい離していると判断される。
あくまで長期的な為替レートのめどを示すものであり、短期的には様々な要因で実勢レートは変動し、購買力平価から大きくかい離することはまれではない。長期的な「物差し」といっても、為替レートの絶対的な均衡水準を指し示しているわけではなく、比べる対象によって、その数値はかなりバラツキがある。
前日の海外市場で、浜田教授の発言はタイミング的にドル売りの材料としてうまく使われた形だ。発言の直前に、ドルは120.84円付近まで上昇しており、市場で「ちょうど121円を試そうという機運が盛り上がっていた時に、同発言が伝わり、投機筋のドル買いに冷や水をあびせられた格好」(邦銀)だという。
<「ビッグマック指数」では34%円安かい離>
とはいえ、現在の1ドル120円付近の為替レートは、購買力平価からは円安方向にかい離しているという見方は少なくない。
国際通貨研究所が試算する2月時点のデータでは、購買力平価を算出するベースによって異なり、消費者物価では129.82円、企業物価では101.01円、輸出物価では77.48円となっている。
現在の1ドル120円付近の為替水準は、消費者物価ベースではまだ円高となるが、実勢レートが消費者物価ベースを超える円安になったのは、プラザ合意前の2回しかない。このため、購買力平価を算出する際は企業物価や輸出物価を基準にすることが多く、両基準に対しては大きく円安方向にかい離している。
英エコノミスト誌が算出する「ビッグマック指数」も現在のドル/円レートが円安方向にかい離していることを示している。日米のマクドナルドが販売するハンバーガー「ビッグマック」の価格を比べると、今年1月時点のデータで、日本が370円、米国が4.79ドル。当時のドル円が117.77円だったので、日本の370円をドル換算すると3.14ドル。実際の米価格4.79ドルに対し、現在のドル/円レートは34.4%円安に振れているということになる。
みずほ証券・チーフマーケットエコノミストの上野泰也氏の試算では、輸出デフレーターや日本の企業物価指数(米国は生産者物価指数)による月ベースのドル/円購買力平価は、円安方向のかい離率が過去最大水準に拡大している。上野氏は、購買力平価はあくまで長期的なものさしとしながらも「一定のレンジを超えると、現在の為替レートは行き過ぎと言う認識が市場に広がりやすい」と話す。
<ドル/円は上下ともに動きにくい>
悩ましいのは、実勢レートはいずれ購買力平価に回帰するとはいえ、それが「いつ」なのかはわからないことだ。
国際通貨研究所のデータでみると、購買力指数は1980年代後半から2000年までは、輸出物価とほぼ同水準で連動して推移していた。しかし、2000年以降、輸出物価と企業物価の間のレベルで推移することが多くなり、輸出物価からは約15年以上、上方にかい離したままだ。
2012年11月からは、いわゆる「アベノミクス相場」が始まり、13年5月には企業物価による購買力平価とほぼ同水準まで円安が進行。14年10月31日の日銀追加緩和以降は、さらに企業物価から大きく円安方向にかい離してきたが、それは現在まで約半年続いている。
現在の為替市場の方向性を決めている大きな要因は、各国の金融政策だ。利上げが視界に入る米国と、追加緩和期待も大きい日本では、金融政策の方向性が異なっていることが、足元のドル高/円安の背景となっている。購買力平価からは、円高方向に修正が入ってもおかしくないが、実際に米国が利上げに踏み切れば、一段の円安が進むとの見方も多い。
ドル/円は浜田発言で売られた後は、119円後半で下げ渋っている。購買力平価や日米金融政策の思惑など材料が混在するなかで、上値も堅いが下値も堅いという動きにくい展開がしばらく続きそうだ。
(伊賀大記 編集:田巻一彦)