アップルでは、単純にコンピューターの機能を追求するのではなく、「人間にフォーカスしたコンピューター」の設計を目指していました。その中心にあったコンセプトは「テクノロジーを人に近づける」というものでした。

実際に、ジョブズはこう語っています。


「テクノロジーだけでは足りない。人文科学や芸術と結びついたときにこそ、やっと人の心を動かす機会が生まれる」

このように、ジョブズは常にテクノロジーを人の感性で包むことを意識していました。

その結果生まれたのが、1984年に発売されて以降、世界中に根強いファンを持つコンピューター「Macintosh(Mac)」ブランドです。

競合商品がどれも情報処理の精度を高めた「優秀な機械」だったのに対して、Macは人間の直感で動いてくれる「スマートな友人」のような存在を目指していました。

家電のように部屋のなかに馴染み、デザイン家具のように人をワクワクさせる本体のデザインから、マウス、画面やアイコンなどのグラフィック、それを宣伝する広告に至るまで、すべての要素を通じて、人が人と向き合うように、コンピューターとともに作業する世界を実現しました。

このコンセプトを象徴するメッセージが、伝説的なCM『1984』です。当時コンピューター業界を寡占していたIBM社を、テクノロジーで人を監視する支配者に見立て、人々が皆同じ方向を向いて「思考停止」状態に陥っているシーン――。

Apple『1984』CM

そんなところへ、エネルギッシュな若い女性が走ってきてハンマーを投げつけ、その無機質な世界を徹底的に破壊する――その姿は、まさに「テクノロジーだけを追い求める古い価値観の世界から、人が主導権を取り戻した瞬間」を印象づけました。

「製品」ではなく「体験」を売るという発想