<宇宙という壮大なスケールの世界観の中で、極めて個人的で繊細な心の動きが描き出される新作『スペースマン』>

旧ソ連の巨匠アンドレイ・タルコフスキーの名作『惑星ソラリス』(1972年)を、今の時代に人気俳優アダム・サンドラーとキャリー・マリガンの主演で撮り直したらどうなるか?

■【予告編動画】宇宙グモと孤独な男の奇怪な友情...映画『スペースマン』

しかもそこに巨大で心優しき宇宙グモ(声の出演はポール・ダノ)が加わり、謎の惑星探査を手がけるのがアメリカでもロシアでもなくチェコのチームで、その指揮を執るのがイングリッド・バーグマンの娘イザベラ・ロッセリーニだったら?

ああ、きっと本気の映画ファンには夢(もしくは悪夢)みたいな作品となるに違いない。例えばヨハン・レンク監督のこの新作『スペースマン』(ネットフリックスで独占配信中)のような。

ちなみにレンクは長年にわたりミュージックビデオを手がけてきた人物で、2019年のテレビドラマ『チェルノブイリ』ではエミー賞の監督賞を獲得している。

さて、カンヌ映画祭で審査員特別賞を受賞した『惑星ソラリス』は、謎の惑星に派遣された宇宙飛行士が先立たれた妻の「亡霊」と出会い、やがて互いの心を開いていく不思議な物語だった。

対して『スペースマン』(原作はチェコ生まれの作家ヤロスラフ・カルファーが2017年に発表した『ボヘミアのスペースマン』)では、謎に包まれた「チョプラ雲」の正体を探るべく、宇宙飛行士のヤクブ(サンドラー)が単身で木星へと向かう。地上に残された妻のレンカ(マリガン)は妊娠中だが、陰気で仕事一辺倒の夫に愛想を尽かし、離婚の決意を固めている。

ただし夫婦間の葛藤を深く掘り下げてはいない。代わりに描かれるのは地球人と地球外生物の不思議な交流で、いくつか心に残る場面もある。

原作の小説は独特なユーモア感覚が高く評価されたが、映画の『スペースマン』に笑いはなく、時に厳粛なほど深刻な雰囲気が漂う。主演のサンドラーはコメディアン上がりだが、その演技力は既に実証済み。笑いを取る場面はほとんどなくても、気難しく孤独な中年男を見事に演じ切っている。

『2001年宇宙の旅』や『オデッセイ』、『ファースト・マン』などを引き合いに出すまでもないが、一人の男が「史上最高に孤独な人間」として宇宙へ飛び立つという設定自体は珍しくもない。だが、その孤独を癒やす存在が宇宙グモというのは、なかなか意外で独創的なチョイスだ。

扉の向こうにいたのは8つの目を持つ謎の生物
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