<北朝鮮では国家の所有物である牛について、金正恩の下で管理実態の調査が厳格され、不正が発覚すると重罰が下されている>

北朝鮮において、すべての牛は国家所有となっている。牛は育てて食べるものではなく、畑を耕したり、荷物を運んだりする重要な生産手段なのだ。

そのため、許可なく牛を屠畜することは重罪だ。昨年8月、牛をさばいて密売した容疑で男女9人が公開銃殺にされた。

(参考記事:美女2人は「ある物」を盗み公開処刑でズタズタにされた

咸鏡南道の虚川(ホチョン)郡当局は、郡内の牛の実態調査に乗り出したと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

現地の情報筋は、郡当局が今月7日、「戦時動員のための事前準備」との名目で、牛の管理実態の調査を行ったと伝えた。

調査に際して、牛を多く飼育している農場や牛馬車事業所、工場に対して、「検閲(調査)に備えよ」との指示が下された。そして、郡人民委員会(郡庁)の軍需動員部の検閲員は、牛の管理者と牛の履歴などを確認し、管理状態や荷物の運搬能力を評価し、台帳に記録した。

こうした調査の過程で不正が発覚すると、前述したとおり責任者(犯人)に重罰が下されるというわけだ。

(参考記事:飢える北朝鮮「禁断の食肉マフィア」男女9人を公開処刑

ちなみに、牛の飼育登録書と実際に飼育頭数が合致しているかの調査は今までも行われていたが、管理状態まで直接確認したのは今回が初めてだという。担当者は戦々恐々として成り行きを見守ったはずだ。

なお、牛馬車事業所とは、牛車を使って地域内の小規模な物資の運搬を担っている国営企業で、概ね10頭から30頭の牛を飼育している。

また、咸鏡北道(ハムギョンブクト)富寧(プリョン)郡の情報筋は、現地でも牛の実態調査が行われたと伝えた。検閲員は農場を周って検査を行い、邑(ウプ、郡の中心地)で飼われている牛は、牛馬車事業所で検査を受けた。

かつては年配の男性が牛車を引いていたが、最近では若い人たちがやるようになり、町内のゴミ捨て場のゴミ、石炭や薪などを運ぶなど、牛車は地元にとってなくてはならない存在だ。

コロナ前は「ポリ車」や「ソビ車」と呼ばれるタクシーが交通手段として活用されていたが、3年半にわたったコロナ対策の国境封鎖で石油の輸入が減り、部品も入荷しなくなったため、牛車が交通手段として改めて脚光を浴びているようだ。

今回の牛に対する調査だが、全国的なものなのか、当局の真の意図はどこにあるのかなどを含めて、詳細はわかっていない。

[筆者]

高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

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