日本人独特の神聖観

表1を再度見ると、神聖に関する項目が抜け落ちていることに気づくだろう。これは、MFQがキリスト教的な価値観を元にしているため、日本人の神聖観が適切に測定できていない可能性が考えられる 。SMPP調査では、日本人独特の神聖観を測定するために開発された「穢れ忌避尺度」(Kitamura and Matsuo 2021)に着目し、その一部を取り入れている。穢れ忌避尺度は、精神清浄(心が清められる)、信心尊重(神仏を尊重)、身体清浄(欲望のタブー視)、感染忌避(清潔志向)といった、日本人特有の神聖観に関する4つの下位尺度からなる。

個人志向、連帯志向、穢れ忌避という3つの価値観と、イデオロギー及びワクチン誤情報の信じやすさとの関係を分析した結果が表3である。連帯志向派は保守イデオロギー傾向が高く、ワクチンに関する誤情報を信じる傾向があることがわかった。さらに、信心尊重だけが保守イデオロギー、身体清浄だけがワクチン誤情報の信じやすさと関係しており、日本人独特の神聖観が、日本における分断の一因となる可能性を示唆している。

表3 道徳的価値観と政治的イデオロギーとワクチン誤情報の信じやすさ(注:回帰分析が正で有意な場合は◯、負で有意な場合は×)
笹原表3.png

このように、個人志向、連帯志向、穢れ忌避という道徳マトリクスを用いることで、分断に関わる様々な社会現象や社会問題を分析可能になることが今回わかった。今後もSMPP調査では、道徳的価値観を日本における重要な分断軸のひとつと位置付け、研究を進める予定である。

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■SMPP調査・第1回概要


笹原和俊(ささはら・かずとし) 東京工業大学環境・社会理工学院准教授

笹原和俊。2005年東京大学大学院総合文化研究科修了。博士(学術)。現在、東京工業大学環境・社会理工学院准教授。国立情報学研究所客員准教授。専門は計算社会科学。主著に『フェイクニュースを科学する』(化学同人)、『ディープフェイクの衝撃』(PHP研究所)がある。

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