観測する脳と関係する心
【基調講演3: 量子科学技術研究開発機構 量子生命科学研究所 量子認知脳科学チーム チームリーダー、千葉大学連携教授/東北大学客員教授 山田真希子氏】
山田氏は、量子論の概念を手がかりに、人間の心や対人関係を捉え直す新しい視座を提示した。扱うのは物理としての量子力学ではなく、「不定性」「観測」「エンタングルメント(不可分の関係性)」といった量子論的な概念をメタファーとして心理・神経科学へ応用する試みだ。これまで物理学や数学の領域と思われてきた、「不定性」「観測」「エンタングルメント」といった量子論の考え方を、「心」や「人との関係性」という、最も人間的なテーマに適用する、新しい研究の最前線の景色を共有した。
「観測する脳」とは、世界だけでなく自分自身を常にモニターし続ける脳の働きを意味し、「関係する心」とは、心は個人の頭の中にあるだけでなく、人と人との関係の中にこそ心の状態が立ち上がってくる──。「観測する脳と関係する心」というタイトルにはそうした思いや視点が込められ、量子論的な考え方を人間関係や幸福に適用する研究を紹介した。強調したのは、これは物理としての量子の話ではなく、量子論の概念を「メタファー」として使うという立場だ。
現代のAIは、同じ入力に対して安定した出力を返す、極めて優れた装置と言える。しかし人間の心は違う。同じ出来事に出会っても揺れ、迷い、「まだよくわからない」という不定の状態にとどまることがある。この揺らぎや不定性をどう扱うか──それが山田氏の研究の出発点だ。