古典的な確率論では、量は「確率変数」として表され、その期待値は「確率分布」から決まる。この枠組みを一般化する「AB=BA」のように、掛け算の順序を入れ替えても同じ結果になる性質を持つのが古典確率論だ。この制約を外すと、より一般的な「非可換確率論」が立ち現れる──そして、それこそが量子力学の数学的枠組みそのものなのだ。

古典的な確率論では、ランダムに変動する量についても同じ代数構造が使える。しかし、量子の世界では、量同士が「掛ける順番によって結果が変わる」という現象が起きる。これを非可換(ひかかん)性と呼ぶ。

要すれば、一般に、古典では量の代数が可換だが、量子では非可換であり、古典は量子の「制限された形」に過ぎない。量子論は、より広い確率の枠組みを自然に記述しているという論理に接続する。

脳科学にも量子的枠組みが必要な理由

こうした非可換構造が生まれる理由を、西郷氏は上述の「測定という行為」から説明した。量子では、測るという操作が状態そのものを変えてしまう。これは物理の世界だけではない。

たとえば、人に「明後日の昼ごはんは何を食べたいか」と尋ねれば、多くの人は「質問されて初めて」答えを思いつく。つまり、問い(測定)が答え(状態)を「作り出している」側面がある。この認知の特徴は、量子の測定理論と非常に似ていることを示唆する。

「聞かれることによって初めて想像される」ような現象は、人間社会で至る所にある。それがたまたま歴史的事情でミクロな量子物理学で発見されただけであって、ミクロでなくても「測ることが状態を変える」側面が強く出る場面では、量子物理学で発達した数学的枠組みを応用できるはずだ。

質問順序によって回答率が大きく変わる現象