現実の不定性

【基調講演2: ZEN大学知能情報社会学部教授 西郷甲矢人氏】

西郷氏は、数学者の視点から、磯村氏が示したような「量子力学の数理的な枠組みが、なぜ、ミクロの世界とはかけ離れた人間の脳や意識を説明できるのか」という、根本的な疑問と向き合う。量子力学の数学的構造が、なぜ脳や意識の研究にも自然につながるのかを示した。磯村氏の量子的ベイズ推論の論理展開を踏まえ、「そもそも量子という枠組み自体がなぜ必要なのか」をより基礎的な数学の立場から説明する。

西郷氏はまず、「現実とは何か」という哲学的な問いから話を始めた。現実には「決まりきっていない部分」、つまり不定性があるという。未来を完全に予測できないという事実は、量子の世界だけではなく、日常の出来事にも広く存在する。科学とは、この不定性を抱えた世界でたびたび現れる法則性を抽出する営みであると述べた。

「測ること」が「状態」を変える

西郷氏は、科学における基本的な構造を説明する。システム、つまり「系」と「環境」という二つがある。重要なのは、脳でも種でも組織でも何でもよいが、系がどのような環境に置かれるかによって、異なる姿を見せることだ。

科学では最終的に「測定」が必要になる。身長、体重など、さまざまな量を測る。量とは、身長や重さのように数値で測れる属性のことであり、複数の量は「足したり掛けたりできる」代数(アルジェブラ)構造を共有する。

ここで西郷氏は重要な問いを投げかける。

「測ることが状態を変えるのは、ミクロの物理学だけの問題だろうか」

西郷氏は聴講者を見渡しながら、「量子力学が特殊なのではなく、実は古典確率が量子確率の特別な場合に過ぎない」という重要な視座を示した。

そして、不定性を扱うときも、数学的には「量=オブザーバブル」が重要となる。

脳科学にも量子的枠組みが必要な理由