この「関係の場」を数理的に表現するため、山田氏は、二人一組のペアが協調して課題に取り組む際の実験データを解析した。実験では、二人同時に脳波(EEG)を計測する「ハイパースキャン」という手法が用いられている。解析にあたっては、二人分の脳活動を、「密度行列」という、量子論で状態を表す数学的な手法で解析した。
その結果、実際のデータでは、同じ課題をしていても、ペアによって関係の作られ方が全く違うことが鮮明に現れた。あるペアは一つのモードに強く引き込まれた安定した関係を持ち、別のペアは複数のモードが入れ替わる流動的で複雑な関係を持っていた。
さらに、密度行列から計算される「純粋度」すなわち、「ピュリティ」と、「複雑さ」を示す「エントロピー」の間で、すべてのデータが一定の制約関係(負の相関)に沿って分布することが示された。これは、位相同期のような古典的な解析では捉えにくかった関係の違いが、量子論の数学的枠組みを用いると構造として可視化できることを示していると言う。関係のパターンを「密度行列」として表現し、量子論の数学的枠組みを借りて、固有値構造やエントロピー、ピュリティを計算することで、関係の複雑さや引き込みの強さを定量的に扱えるようになったと言える。
これは、2人の協調的な脳活動が、単なるノイズではなく、量子論で説明できるような構造を持っていることを強く示唆する驚くべき結果だ。
「個々の脳ではなく、関係そのものを一つの状態として記述できる」――これが山田氏の示した新しい視点だ。不定性を抱えつつ、どう自己や他者と関わるかを考えるための、量子論的認知神経科学の可能性が示された。
【記事後編】今後の日本の「科学技術の趨勢」を占う「応用脳科学コンソーシアム」の現在地と未来 に続く
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