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現在はオデーサにいるカテリーナ COURTESY OF KATERYNA YERSKA

マリウポリでのロシア兵の様子についても話してくれた。

「マリウポリではロシア兵は嘘の情報を流して回っていた。スピーカーを使って、『ウクライナ側にはもう行けない。ウクライナ政府はもうあなたたちのことを受け入れない』と言ってね。ロシア側に行くしかないと住民に思わせようとしていた」

カテリーナは女の子たちと別れ、元の車の運転手とザポリッジャに向かった。彼女自身も移動中にチェチェンの部隊に止められ、ザポリッジャに行くのだと伝えると、「ザポリッジャはもう包囲されていて入れない」と嘘を教えられたという。実際はウクライナ政府のコントロール下にあり、多くの避難民を受け入れている。

アジア系の顔立ちをしたロシア兵を見たという話もしてくれた。スラブ系のロシア人にとってもこの戦争は突然だったのだろうが、ロシア政府はよりウクライナの問題になじみが薄い人々を投入しているのかもしれない。

ロシア軍はマリウポリの住民6000人をロシア側に強制連行したともいわれている。

「私の友達の両親がロシアに連れて行かれた。書類にサインさせられて3、4年とどまるって約束させられたそう」

ロシア軍は連行した人々の思想チェックをし、ロシア寄りの人とそうでない人に分け、そうでない人は外部と接触できない所に隔離している、という未確認情報もある。

3月20日にロシア政府はマリウポリの降伏を提案し、ウクライナ政府はこれを拒否した。マリウポリの人たちはこの事態をどう感じているのか。カテリーナは説明する。

「私はその時にはもう脱出していたから分からない。けれど、みんな降伏したからって安全になるとは思っていなかった。街に残った男性たちは、家族へのお別れのメッセージを録画していた。降伏するより死ぬつもりだと」

住民たちはもともと反ロシアではなかった

住民たちは2月の侵攻が始まる前まで、反ロシア政府感情が強かったわけではない。マリウポリのすぐ近くにはロシア編入を求めるドネツク共和国があり、マリウポリ自体も同じドンバス地域にある。既に戦争は隣で起き、毎日、砲撃の音が聞こえていたにもかかわらず、統治者が誰かに住民は関心がなかったという。

「マリウポリの人たちは皆政治には関心がなかった。ただ平和な暮らしがしたいと思っていただけ。彼らにとっては、政治的にロシアかウクライナのどちらかを選ぶという問題ではなかった」

しかしこの侵攻が人々の考えを一変させた。

「中立的な立場だった人まで侵攻後は劇的に変わった。ロシアへの感情とかそんな話じゃない。平和的な人たちも殺して妊婦さえ逃げられないのだから。これは戦争だから」

この決死の覚悟に、私はどう反応したらいいのか分からない。住民に死んでほしくはない。住民には戦いたいという思いだけでなく、降伏しても殺されるだろうという想像、予測がある。国際社会にできることはもっとあるはずだ。ウクライナの人々に全てを背負わせるのではなく。

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