Samia Nakhoul
[ドバイ 4日 ロイター] - トランプ米大統領は、イランの体制転換を目指して戦争に踏み切った。しかし結局揺らいだのはイラン政権ではなく、むしろワシントンにおける自身の政治基盤だった。戦争への疲労感と燃料価格高騰に不満を募らせた有権者は、中間選挙で民主党に議会の主導権を与えた。
選挙の結果として立場が弱まったトランプ氏は、交渉による出口戦略を模索するか、さらに危険な軍事的エスカレーションに踏み切るかという選択を迫られている。
イランとその同盟勢力は、この選挙結果を戦争に対する米国民の審判として歓迎。ペルシャ湾岸諸国の政府関係者の間では、今後トランプ氏がどの方向へ進むのかを見極めようとして緊張感が広がった。
米国の湾岸地域の同盟国に近い関係者の1人は、選挙結果を受けて「イランは米国で『体制転換』を成功させた」と皮肉った。複数の関係者は、民主党の圧勝規模は湾岸諸国の当局者らが言葉を失うほど衝撃的だったと明かす。
湾岸地域の政府関係筋2人は、民主党が議会を掌握して軍事行動を制約できるようになったことで、トランプ氏には交渉妥結を目指す動機が強まり、全面的な対イラン攻撃の可能性は後退したとの見方を示した。中国が仲介に向けた動きを強める中で、核施設への限定的な追加攻撃で目的達成を宣言し、戦争に区切りをつけるシナリオも考えられる。
ただしイラン側にとって明確な勝利主張が可能で、トランプ氏が敗者のように映る合意となれば、慎重さではなく無謀な行動を招く可能性もあると湾岸地域の専門家らは警告する。
中間選挙結果に先立つ10月27日には、イスラエルで戦争のもう1人の主導者だったネタニヤフ首相が打撃を受けた。総選挙で同氏率いる右派陣営の獲得議席は120議席中53議席にとどまり、過半数に8議席届かず、政権維持に向けて厳しい状況に追い込まれている。
政治的苦境に立たされたトランプ氏とネタニヤフ氏という2人の指導者は、それぞれ自身の政治生命と戦争の行方の結び付きが一段と強まっている。そのため、本来は避けるべきエスカレーションを、自らの政治的困難を打開する手段と考えるかもしれない。たとえこうしたエスカレーションが非合理的な判断であったとしても、現実化する危険性は小さくない。
<誤算のリスク>
アラブ首長国連邦(UAE)アブダビ首長国のシンクタンク、エミレーツ・ポリシー・センターのエブテサム・アルケトビ所長は「米国の選挙結果によってトランプ氏には和平合意の必要性が高まったが、イランにとって交渉が容易になったわけではない」と指摘する。
アルケトビ氏は、重要なのはテヘランがこの状況をどう解釈するかになると指摘。「イランが、トランプ氏は合意を必要としているが、どのような合意でも良いわけではないと理解すれば、戦争終結に向けた真の機会が生まれる可能性がある。しかし、今回の結果を米国が弱腰になったとイランが受け止め(強気になる)ならば、逆にトランプ氏を新たな軍事的エスカレーションへと駆り立てるかもしれない」と懸念する。
湾岸諸国は今回の選挙が戦争終結への道を開くことを望んでいるが、どのような条件でも構わないわけではない。ホルムズ海峡の航行の自由が軽視される合意や、イランが船舶通行に対して通行料や政治的条件を課せるような枠組み、あるいは湾岸諸国が軍事的脅威にさらされたままの状態を容認する合意は、一時的な平穏をもたらすだけで、新たな危機の火種を残すことになる、というのがアルケトビ氏の分析だ。
一方、イランでは指導部がトランプ氏の敗北を歓迎したものの、複数のイラン高官によると、トランプ氏が敗北を挽回するため軍事攻撃に踏み切る可能性に備え、イランは引き続き厳重な警戒態勢を維持している。最高指導者モジタバ・ハメネイ師は「降伏へのいかなる傾斜も許されない」と述べ、ホルムズ海峡を巡る要求を緩和する意思がないことを示唆した。
UAEの政治アナリスト、アブドルハレク・アブドラ氏は、現在より大きな危険は米国やイスラエルではなくイラン側にあるとの見方を示す。同氏によれば、イラン指導部は長年にわたり自国の力を過大評価し、米国やイスラエルの軍事力を過小評価してきた。その思考様式は今も変わっておらず、新たな戦闘再開の可能性を排除すべきではないという。
同氏は「イランは現在、これまで以上に誇示できる材料を得ている。もし再び戦争へ引きずり込まれるなら、それはネタニヤフ氏でもトランプ氏でもなく、テヘランの指導者たちによるものかもしれない。彼らは、トランプ氏が弱体化し、ネタニヤフ氏は終わったと誤認し、さらに事態をエスカレートさせる恐れがある」と警告した。
<レガシーの誘惑>
サウジアラビアを拠点とする湾岸研究センターのアブドルアジズ・サゲル会長は、選挙での敗北がトランプ氏をむしろ強硬姿勢へ向かわせる可能性に言及した。中間選挙が終わり、3選への道もない状況で、これまで自制を促していた選挙上の配慮は薄れつつある。大統領に残されたのは、失うものが少なくなり、自らの政治的遺産(レガシー)を確立したいとの考えだという。
サゲル氏は、トランプ氏が退任前に対イラン政策で「最後の仕事を成し遂げたい」と考えるのではないかと予想。「もしイランが抵抗を続け、勝利を宣言するような形になれば、トランプ氏はそれを阻止し、自らの政権に明確な成功を刻むため、行動を起こさざるを得ないと感じるかもしれない」と付け加えた。
レバノンの政治評論家サルキス・ナウム氏は、選挙の敗北によりトランプ氏は対イラン交渉で立場を弱め、交渉材料も選択肢も減少したと分析する。つまり交渉が行き詰まれば、政権が強硬策に傾くリスクも高まることを意味する。
レバノンの親イラン民兵組織ヒズボラの関係者も、戦争の脅威が完全に後退したとは言えず、「無謀な行動」が起きる可能性は依然残っていると指摘。「現時点では、事態がエスカレートするか、沈静化するかは五分五分だ」と述べた。