築61年の旧郵便局が再生――産官学で挑む「循環する住まい」の実現

世界150カ国以上で約5万3000人の従業員を擁し、トイレやキッチンなどの水まわり製品から窓、ドア、エクステリアなどの建材製品まで幅広く手掛けるLIXIL。「世界中の誰もが願う、豊かで快適な住まいの実現」をパーパスに掲げる同社が、今回の実証で取り組んだのは、古い建物を生かしながら新しい住宅へと再生することだった。

対象となったのは、かつて地域住民が集う憩いの場でもあった築61年の住居兼旧簡易郵便局。役割を終えてから長年空き家となり、調査時には床が腐り落ちるほど老朽化が進んでいた。通常なら解体・新築が推奨される状態だ。

それでも関係者は、再利用できる素材を極力生かし、現代の技術で快適な住まいに再生できないかと知恵を出し合った。

そこで採用されたのが、既存の建物を外側から新たな構造体で覆い、古い躯体を残しながら耐久性と断熱性を高める「さや堂方式」だ。傷んだ既存躯体はデザインとして生かし、新設した外側の構造体で建物を支える。

既存躯体である内側の柱の奥に断熱パネル(LIXILスーパーウォールパネル)等の構造体を新設。最新の建材で古い躯体を包み込むことで現代の建築基準を満たす性能を確保。さらに経年変化した柱や梁が放つ特有の美しさをデザインとして生かした
既存躯体である内側の柱の奥に断熱パネル(LIXILスーパーウォールパネル)等の構造体を新設。最新の建材で古い躯体を包み込むことで現代の建築基準を満たす性能を確保。さらに経年変化した柱や梁が放つ特有の美しさをデザインとして生かした。

資材にも工夫を凝らした。町内で発生した廃材を土間コンクリートに活用し、解体時に出た木材は外壁材や家具として再利用。LIXILは、リサイクルアルミの使用比率を高めた循環型低炭素アルミ「PremiAL」や、再資源化が難しかった廃プラスチックを活用した素材「revia」による建材製品を導入した。さらに、最新のIT技術・設備を取り入れ、快適性と利便性の確保も図った。

屋外アプローチや外構には、従来焼却・埋め立て処分されていた家庭用廃プラスチックと廃木材を融合させた「revia」を設置。大阪万博で使用されたものを再利用した。土間コンクリートはプロジェクト関係者と地元住民がワークショップで仕上げた。
屋外アプローチや外構には、従来焼却・埋め立て処分されていた家庭用廃プラスチックと廃木材を融合させた「revia」を設置。大阪万博で使用されたものを再利用した。土間コンクリートはプロジェクト関係者と地元住民がワークショップで仕上げた。

2025年12月上旬の解体開始以降、土間づくりや外壁、内装などのワークショップを重ね、2026年9月下旬には成果報告会を実施。10月以降には再生した建物の活用を開始する計画だ。

一方、回収した建材の保管場所や輸送の調整、手作業による分別解体のコスト、建材の分解の難しさなど、実証を通して課題も浮かび上がった。

こうした課題に対し、町内の空き家を「資材倉庫」としてデータベース化する仕組みや、不揃いな廃材に新たな魅力を与えるデザイン手法、地域の施工業者が実践できる分別回収プロセスの標準化を検討している。

この取り組みの強みは、大崎町の現場とリサイクルの知見、鹿児島大学の科学的評価、LIXILの製品開発・製造技術を結び付けられることだ。現場で得た課題やデータを、分解・再利用しやすい建材の開発に直接反映できる。

今後はCO2削減効果などの環境価値を可視化し、2027年3月の論文発表を目指す。さらに大崎町で培ったモデルを標準化し、全国の自治体へ展開することも視野に入れる。

壊すしかないと思われた築61年の建物が、地域の記憶を残しながら新たな役割を担う。空き家を「負担」から「資産」へ、廃材を「ごみ」から「資源」へ。大崎町の一棟から始まった挑戦が、住宅と地域の未来を変える一つの道筋を示している。

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