Stephen Eisenhammer

[ロンドン 3日 ロイター] - 産業革命以降、人工知能(AI)ほど巨額の資金を呼び込んでいる新技術はかつて存在しない。もはや鉄道やインターネットが技術革命を巻き起こした時代の投資額さえしのごうとしている。

会計事務所プライスウォーターハウスクーパース(PwC)の試算に基づくと、世界のデータセンターへの2050年までの累積投資額は30兆ドル超と、米国債の発行残高にほぼ匹敵する規模に達する可能性がある。PwCは、インフレを考慮しても、鉄道ブームやITバブルの際の投資額を「はるかに上回る」と指摘している。

AI開発競争をリードする企業の一つ、アンソロピックも今後数年間で5180億ドルを投じる計画だ。ロイターが確認した新規株式公開(IPO)の目論見書によると、その額は同社の25年売上高の100倍を超える。

AIを支持する人々は、この技術が蒸気機関の登場と、それがもたらした工業化をも上回る変革を社会にもたらすと主張する。

目まいがするような成長予測やAI企業による巨額の投資、そして極めて高い企業評価額の背後にあるのは、AIによって経済全体の生産性が大幅に向上し、将来巨額の利益が生まれるとの前提だ。しかしエコノミストらによれば、そうした期待が実現可能なことを裏付ける証拠は今のところ乏しく、確かな歴史的前例もない。

<依然不確実な生産性向上>

JPモルガンは8月、AI開発競争を主導する米国について、経済全体に及ぶ生産性向上は「依然として見えてこない」と描写し、AI関連企業の現在の評価額が持続可能なのか疑問を呈した。コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーが9月に発表した調査も、既存市場における生産性向上だけでは現在の巨額投資を正当化できず、資金面のギャップを埋めるには「全く新しい市場が生まれなければならない」と分析した。

そうした市場として想定されるのは、AIが制御するロボットの活用から、電池や半導体向けの新素材開発まで幅広い。グーグル、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフトといった世界各地でAIインフラを展開する米国の巨大クラウド事業者(ハイパースケーラー)をはじめとするAI関連企業は、こうした設備投資を賄うため、今後5年間で4兆2000億ドルを超える新たな売上高を生み出す必要がある、というのがベインの試算結果だ。

同社は「問題は、その投資を回収できるだけのAIアプリケーションが間に合うように登場するかどうかだ」と指摘した。

過去の技術革命によって移動時間が数日から数時間に短縮され、インターネットによって瞬時に世界がつながったように、AIがオフィスでの仕事から研究所での活動まであらゆるものを変革する可能性については、ほとんど疑いがない。

一方、投資の採算を確保するための計算や、借金を返済しなければならない期限はそう簡単には変わらない。このためエコノミストは、投資ブームの盛衰を超えてAI投資が世界経済にどのような影響を与えるのかを見極めようとしている。

JPモルガンは「歴史を振り返ると、技術革新に伴うブームはインフラへの巨額投資が十分な収益を生み出せなくなった時に終わることが多い」と記した。

AI革命を支える半導体を供給するエヌビディアを例に取ると、同社の現在の企業価値を正当化するには、JPモルガンの見積もりでは米国の生産性が今後10年間、毎年3-5%のペースで向上する必要がある。これは米議会予算局(CBO)が同期間について想定する年間1.75%という生産性上昇率を大幅に上回る。

米コロンビア大経営大学院の経済学者スティン・バン・ニューウェルバーグ氏が計算したところ、世界のAI投資の約4分の3を占めるとの推計もある米国だけを見ても、その投資額は25年から32年までに最大約9兆ドルに達し、毎年米国内総生産(GDP)の3.2%に相当する額をAIに投じることになる。

さらに同氏によれば、投資額に対して10%のリターンを32年時点で得るには、米AI産業は年間約3兆5500億ドルの売上高を生み出さなければならないが、現在の売上高はそのごく一部にとどまる。

AIインフラ投資に使われている資金の多くが、借り入れによって投資額を膨らませるレバレッジを活用していることもリスクとなる。同氏は10月に改訂した学会向け論文で「需要の比較的小幅な悪化や計画の遅延、資産価値の下落であっても、それによってはるかに大きな損失が生じる恐れがある」と警告した。

<インフラが残れば問題なし>

それでも、膨大な投資額やそれに見合う収益を稼ぎ出すための目まいがするほど高いハードルを示す数字を前にしても、米国のAI業界のトップたちが未来について語る熱気は冷めていない。

アンソロピックのダリオ・アモデイ最高経営責任者(CEO)は、AIがもたらす未来について「人知を超えた美しさを持つもの」になり得ると明言。オープンAIのサム・アルトマンCEOも、AIモデルが自ら改善する方法を学び、科学技術上の発見を加速させるようになれば「新たな驚異が生まれる速度は途方もないものになる」と語っている。

グーグル・ディープマインドのジャスジート・セコン最高戦略責任者は8月、カリフォルニア大バークレー校で開かれた会議で、このようなAIによる自己学習、いわゆる「再帰的自己改善」が「投資仮説の重要な部分」を占めていると説明した。これが実現すれば、過去に例のない規模の生産性向上につながる可能性があるとの見方を示す。

その半面、再帰的自己改善によってAIの能力が飛躍的に向上する可能性があることから、人類の存続そのものを脅かしかねないとの懸念も生じている。

いずれにしても、技術自体が急速に進歩したとしても、生産性の向上が企業の財務上求められる時間軸に間に合うとは限らない。

英ケンブリッジ大の経済学者ダイアン・コイル氏によれば、過去の革命的な技術の場合、生産性への効果が経済全体に波及するまで通常10-50年程度かかっている。

そうした中でアンソロピックの経済分析チームは、AIによって30年の経済成長率がどこまで押し上げられるのか、複数のシナリオをモデル化。AIが存在しない場合の基礎的な成長率を年2%とすると、AIの影響が限定的なシナリオでは2.4%、大きな影響をもたらすシナリオでは5.4%、そして極端なシナリオでは15.4%の成長になると試算した。成長率が高くなるほど失われる雇用も増えるとしているものの、各シナリオが実現する確率については示していない。

アモデイ氏は昨年、今後5年間でAIによってホワイトカラーの初級職の半数が失われる可能性があると予測した。ただ現時点では、その影響はむしろ、オフィスワークを求める若者などが仕事を見つけにくくなるという形に限定されている可能性があると一部の研究者は指摘する。

米国と英国の研究では、AIが得意とする業務を担うホワイトカラー職で若手の採用が鈍化していることが示されているとはいえ、雇用全体は引き続き堅調だ。米スタンフォード大の研究者らが8月に発表した分析によると、会計士やパラリーガルなどAIの影響を受けやすい業種で働く22-25歳の雇用は、清掃員や建設作業員などAIによる代替が難しい仕事と比べて19%少なかった。

もっとも、AI企業を取り巻く現在の数字が示唆するほど早く変革が訪れなかったとしても、AIへの巨額投資によって整備されたインフラ本体は残り、将来的に実体経済へ恩恵をもたらしてもおかしくない。

1873年恐慌で鉄道王たちが相次いで破産した後も列車は走り続け、1990年代末のITバブルが崩壊してもインターネットがなくなることはなかった。同じように、もし現在のAI投資ブームが行き過ぎだったとしても、そこで築かれたデータセンターや計算資源などの基盤は、その後も社会に残る可能性がある。

コイル氏は「この問題を理解しようとする時、歴史は私たちの味方になる。将来、生産性向上の効果を支えるために必要なインフラがきちんと残るのであれば、それで問題はない」と言い切った。

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