Johann M Cherian Gregor Stuart Hunter
[14日 ロイター] - 世界の株式市場では14日、人工知能(AI)関連株が急落した。大手企業のトップらがAI技術について、潜在的に存亡に関わるリスクがあると警告したことが背景。巨額のインフラ投資で相場を最高値圏に押し上げてきた業界への信頼が揺らいでいる。
売りは業界全体に波及した。AI企業は大規模な投資計画の資金を負債や循環型資金調達に頼る度合いを強めている。国債利回りが数年ぶりの高水準にあるなど、世界の借り入れコストは上昇を続けている。
アンソロピックのダリオ・アモデイ最高経営責任者(CEO)は12日、AIが悪用されるとの懸念が高まる中、各社に対し開発ペースを遅らせるよう呼びかけた。xAIを率いるイーロン・マスク氏と、オープンAIのサム・アルトマンCEOは、アモデイ氏に同意すると表明した。
またアルトマン氏は安全性への懸念を理由に、オープンAIが年内に新規株式公開(IPO)を実施しないと明らかにした。
<半導体株が世界的な売りを主導>
フィラデルフィア半導体株指数(SOX)は5.9%安。エヌビディアが3.4%安、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)が4.4%安、マイクロン・テクノロジーが5.3%安となった。
また、半導体製造装置のラムリサーチは8.3%、アプライド・マテリアルズは7.1%と、ハイテク向け電力供給のブルーム・エナジーは6.8%、それぞれ下落した。
欧州市場でもハイテクセクターが軒並み大幅安となったほか、アジア市場ではソフトバンクグループが10%を超える急落となり、台湾積体電路製造(TSMC)、SKハイニックスも下落した。
インタラクティブ・ブローカーズのチーフマーケットアナリスト、スティーブ・ソスニック氏は「これがAI投資の減速や再考につながるとすれば、経済や株式市場の主要セクターに影響が及ぶだろう」とし、そもそも市場はAI投資を背景に過熱気味だったと話した。
<AIによるインターネット掌握への警鐘>
AIがもたらす潜在的なリスクへの警戒は、アンソロピックの研究者ジェイコブ・コクソン氏が今月、AI大手は「われわれの命を懸けたギャンブル」をしていると述べて退社したことで急速に高まった。
アンソロピックは10日、AIを巡る脅威インテリジェンスリポートを公表。同社の「クロード」AIモデルが、兵器開発やサイバー活動から監視、詐欺に至るまで幅広く悪用されていた実態を明らかにした。
ジョンズ・ホプキンス大学のAIアラインメントガバナンス担当教授、ジリアン・ハドフィールド氏は「警告は真剣に受け止めるべきだ。モデルがわれわれの望まない、しかも予測が難しい行動を取る真のリスクが存在する」と述べた。
米議員の一部は、AIの急速な進歩に懸念を示し、新たな規制の必要性を訴えているが、トランプ大統領は14日、こうした懸念について、AIとデータセンターに反対する「病的な陰謀」だとして一蹴する姿勢を示した。データセンターは中間選挙の争点となっている。
米中政府は、今月行う二国間協議の一環としてAIの安全性に関する対話を実施する見通しだ。ただ、中国国営の環球時報は社説でアンソロピックの指摘を批判し、これは中国の技術発展を抑え込むための「冷戦時代の常とう手段」だと非難した。
オープンAIとアンソロピックにとって懸念が強まっているのは、ムーンショットAI(月之暗面)の「Kimi K3」やアリババの「Qwen」、ディープシークなどの低価格な中国製モデルとの競争激化だ。こうした競合が、より大規模で高コストなモデルの価格設定に圧力をかける可能性がある。
<警告を額面通り受け取らない声も>
一方、一部投資家はアンソロピックやオープンAIの警告を額面通りに受け取っていない。2008年の金融危機前の米住宅市場に対する空売りの成功で知られ、映画「マネー・ショート 華麗なる大逆転」のモデルにもなったマイケル・バーリ氏は、こうした警告は「誇大宣伝と虚勢」で、「実質的に制御できない成長鈍化を覆い隠すためのものだ」とXに投稿した。
また、記録的な設備投資方針を踏まえれば、AI開発が減速する可能性は低いとの主張もある。モルガン・スタンレーは今年、AI関連投資が27年までに1兆3000億ドルを超えると予測した。
ドイツ銀行はリポートで「企業間、国家間の競争は依然として激しい。ライバルが前進を続ける中、企業が自主的に足を止める姿は想像しにくい」と見通した。
アンソロピックは現在も株式公開に向けた準備を進めている。関係筋がロイターに語ったところによると、同社は10月にも上場する見通しで、エヌビディアをアンカー投資家として迎え入れる交渉を行っている。