Karen Brettell Chuck Mikolajczak Svea Herbst-Bayliss Gertrude Chavez-Dreyfuss
[ニューヨーク 8日 ロイター] - イランでの戦争をきっかけに始まった米国債の売りが続く中、米長期金利の指標となる10年国債利回りは約20年近く定着することがなかった5%の水準に迫り、この節目を超えた場合の影響に注目が集まっている。
一部のアナリストは、借り入れコストの上昇を通じて企業や消費者の負担が増し、株式市場などに打撃を与えかねないと懸念する。ただ人工知能(AI)関連投資ブームが市場を支えるとの見方も根強い。こうした見解に立てば、利回り上昇は資金需要の強さと堅調な景気を反映しており、AI主導の設備投資拡大が続く限り市場全体も支えられるとされる。
これに対し、今夏に入って勢いを増している別の意見もある。米国を筆頭に先進国政府が歳出を拡大しており、米国では長年続く財政赤字がさらに拡大。そのため政府債務残高は最近40兆ドルを突破した結果、現在の国債売りが従来通り比較的穏やかな規模であっても、今後さらに大きな混乱の前兆となる可能性があるということだ。
7日のレーバーデー後の市場を占う主な注目点は以下の通り。
◎企業の借り入れコスト
10年国債利回りの上昇は企業の資金調達コストを押し上げる。借り換えや企業買収、設備投資のための資金調達が高額になり、AIやデータセンターへの投資資金を借り入れに頼る企業にとっては収益の重荷となってもおかしくない。
もっとも利回り上昇は一定水準を超えれば債券投資の魅力を高め、社債を含む幅広い債券市場へ資金流入を促す可能性もある。投資適格級社債のスプレッドは歴史的な低水準近辺にあり、大企業の健全性や投資環境への楽観を反映している。一方で、信用環境が悪化した場合に投資家がリスクに見合う対価を十分得られない環境であることもうかがえる。
◎株式バリュエーション
ここ数年の強気相場において株価の割高感は繰り返し指摘されてきたが、利回り上昇によって株式は債券との競争にさらされている。ソシエテ・ジェネラルのアルバート・エドワーズ氏は最近のリポートで、米30年国債利回りの株式配当利回りに対する倍率が、2000年のITバブル崩壊以来の高水準に達した(国債投資の妙味が非常に高まった)と指摘した。これを理由に一部投資家の間で、株価上昇の足場がもろくなりかねないとの見方が出てきた。
テクノロジー株の購入目的が配当ではなく成長期待にあることや、企業業績の強さを踏まえれば、配当利回りを過度に重視することへの懐疑的な声はある。しかしエドワーズ氏は、高いバリュエーションの市場は本質的に脆弱だと警告。「割高なバリュエーション自体が弱気相場の引き金になるわけではないが、市場を悪材料に対してより脆弱にすることは確かだ」と述べた。
◎利回りとGDP成長率の関係
今回の国債売りで見過ごされがちなのが、10年国債利回りと米国の名目経済成長率との関係だ。ただ、この指標を重視するアナリストらの懸念は現時点で大きくない。
10年国債利回りは4日に4.8%を付け、週半ばには23年10月以来の高水準を記録した。一方、第1・四半期の名目国内総生産(GDP)成長率は前年比6.07%、第2・四半期は6.56%となり、依然として利回りを上回っている。
エコノミストらは、経済成長率が借り入れコストを上回る状況であれば、米政府は財政赤字を拡大しても債務負担が急激に悪化しにくいと指摘する。
もっとも利回りが成長率を上回るようになれば状況は変わる。利払い負担の増加ペースが歳入の伸びを上回り、債務の持続可能性が低下するためだ。利回り上昇と巨額赤字が続く中で、市場関係者は政策運営の余地が狭まりつつあるとみている。
◎実質成長率
ケビン・ウォーシュ議長率いる米連邦準備理事会(FRB)の下でインフレ再燃への懸念は高まっているが、今年の利回り上昇の主因は物価ではないとみられている。
米財務省が算出する長期実質金利の平均値は、昨年末の2.55%から今週には2.92%へ上昇した。これは残存期間10年超の物価連動国債の実質利回り平均を示す指標だ。
市場では、実質金利の上昇は堅調な経済成長と整合的で「良い金利上昇」の可能性が示唆されており、債務問題への対応策として成長重視を掲げる政権方針を後押しするとの見方が出ている。
TDセキュリティーズUSAの米金利戦略責任者、ゲンナジー・ゴールドバーグ氏は「最近の超長期債利回り上昇は、主として実質金利の上昇によって引き起こされている」と述べた。
◎M&A市場にも暗雲
大型案件の年になるとの期待で始まった今年の企業合併・買収(M&A)市場も、借り入れコストの急上昇に直面して逆風が強まり、投資家の間では市場心理の急速な変化が語られている。
あるヘッジファンド運用者は、レーバーデー直前の時点で、投資家や銀行関係者との会話の中に不安感が広がっていると指摘した。
レーバーデーは例年、夏季休暇明けによる取引活発化や案件増加の節目とされる。しかし現在は、案件成立までの期間が数カ月単位で長引く可能性を見込む投資家が増えているという。価格調整や取引条件の工夫で対応できるとの声もあるが、買い手が提示できる金額は明らかに低下しているとされる。
別の投資家は「何をするにもコストが高くなっており、M&A活動にも影響を及ぼすだろう」と語った。