銅製の半球(中は空洞)が2つ、切り口をぴったり合わせて置いてあった(留め具や接着剤は使っていない)。そこへ30頭の馬が登場し、力を合わせて両側から引っ張ったが、どうにも2つの半球を引き離せない。なぜか。内部が真空のため、大気の圧力でしっかり密着していたからだ。バルブを開けて空気を入れると、あっさり離れた。
これは1654年5月8日、マクデブルク市長が行った「マクデブルクの半球」実験である。そして、ドイツ東部ザクセン・アンハルト州の州都マクデブルクで9月6日に行われた州議会選挙の結果は、また別の「真空」となる。約400年前の実験と同様にドイツの政界を揺るがし、世界の民主主義勢力に衝撃を与えることになろう。
本稿執筆時点で勝敗は定まっていないが、直近の世論調査では極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の支持率が43%に迫り、メルツ首相率いる「キリスト教民主同盟(CDU)」の23%を大きく引き離している。極右政党が州政府を率いることになれば、戦後ドイツ史上初めての事態になる。ナチスにつながる極右勢力を排除するために築かれた強固な防火壁が、ついに破られてしまうのか。
ザクセン・アンハルト州のAfDを率いるウルリヒ・ジークムントは35歳のカリスマ起業家で、州レベルの政治家としてはSNS上で屈指のフォロワー数を誇る。ドイツ民族は「高齢化と絶滅の危機」にあると叫び、移民の追放を掲げ、風力発電に反対し、公共放送局の廃止を主張している。ドイツ基本法(憲法)にはこうした過激派の参入を防ぐための「5%条項」があるが、残念ながら今回は、これが逆にAfDを利する可能性がある。