米連邦準備理事会(FRB)のウォーシュ議長はこれまで、金融政策の見通しについて事前にヒントを与えることに否定的な姿勢を示してきた。しかしインフレの高止まりや今後どのような対応を取るのかについて市場の関心が高まる中で、28日にその姿勢をやや和らげたように見えた。
米西部ワイオミング州ジャクソンホールで開催されたカンザスシティー連銀主催の年次経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)で初めて講演したウォーシュ氏は、市場参加者が金融政策の方向性をある程度読み取れるだけの情報を提供。その結果、市場では来月の利上げ観測が強まり、多くの関係者はこれを「FRB本来のコミュニケーションへの回帰」と受け止めた。
ウォーシュ氏はこの講演で「より静かなFRB、そしてより目的意識を持ったコミュニケーションを行うFRBの方が、目標達成に向けてより有効である」と改めて主張した。だが「われわれの判断基準をここに提示する。基調的な物価上昇率が、十分な速度を伴って明確に目標へ向かっていると確信できなければならない。そうでなければ、われわれにはまだやるべき仕事が残っている」と語った点が、注目すべき変化となった。
シティグループのグローバル・チーフエコノミスト、ネーサン・シーツ氏は、講演後の電話会見で「われわれは今、ウォーシュ氏が経済をどのように見ているのかを以前より理解できるようになった。これは非常に有益で建設的なことだ。経済に関する議長の見方を知ることができたのは大きな前進で、7月の記者会見後の状況と比べれば、意味のある進展と言える」と評価した。
FRBが政策金利を3.50-3.75%に据え置くことを決めた7月の連邦公開市場委員会(FOMC)では、その後の会見でウォーシュ氏は金利見通しや政策判断の考え方についてほとんど言及しなかった。それを踏まえて市場では、ウォーシュ氏が7月の記者会見と同様の姿勢を繰り返すのか、それとも歴代FRB議長のように政策議論に踏み込んだ発言を始めるのかについて議論が続いていた。
今回の講演でもウォーシュ氏は両方の立場の間を取るような発言にとどめたが、市場が政策当局のメッセージとして受け取るには十分だったことから、9月15-16日に予定される次回FOMCで市場が見込む利上げ確率が大幅に切り上がった。
講演冒頭でウォーシュ氏は、自身の姿勢が大きく変わるわけではないことについて「これを概要と呼んでもいいし、道しるべと呼んでもいい。ただし『フォワードガイダンス(将来の政策指針)』とは呼ばないでほしい」と冗談交じりに話した。
それでも市場にとって、その後に示された内容は十分意味のあるものだった。具体的な利上げの約束こそ避けたものの、自身が経済状況にどう反応するかという「反応関数」の一端を示したことで、金利先物市場や債券市場、株式市場では金融引き締めの可能性を織り込む動きが広がった。