Yoruk Bahceli Ben Welsh Dhara Ranasinghe Rocky Swift
[ロンドン/ニューヨーク/東京 20日 ロイター] - 米国の政府債務残高が初めて40兆ドルを超えた。これは高齢化への対応、気候変動対策、防衛費増額など世界の主要国が拡大し続ける歳出需要の重圧に直面している現状を浮き彫りにしている。
今年はイランでの戦争によってインフレ再燃への懸念が高まったほか、欧州で激甚化する異常気象による被害も各国財政への新たな負担となりつつある。
こうした状況を背景に、米30年国債利回りは2007年以来の高水準に上昇し、政府は借入コスト上昇を抑制する対応を迫られている。日本の国債利回りも約30年ぶりの高水準圏にあり、比較的債務負担の軽いドイツでさえ、利回りは11年以来の高水準に達した。
債務負担の増大によって借入コストが上昇すると、政府支出が制約されるだけでなく、経済成長も抑えられ、最終的には国民生活の水準低下につながる恐れがある。国債利回りは企業の資金調達コストや住宅ローン金利など、さまざまな借入金利の基準となるためだ。最悪の場合は国家が債務返済に行き詰まり、債務の維持が困難になるリスクも出てくる。
主要7カ国(G7)の政府債務の主要指標を追跡したデータに基づき、現状を整理した。
◎借入コスト上昇
G7の国債利回りは、新型コロナウイルス禍とロシアによるウクライナ侵攻以降に大幅上昇した。インフレ抑制のため各国中央銀行が急速な利上げを実施したためだ。長期金利の上昇は、投資家が国債保有リスクに対してより高いリターンを求めていることも反映している。
人工知能(AI)関連の巨大テクノロジー企業による大規模な資金調達も市場の重圧となり、大量の債券が供給される中で、投資家は購入を続けるためにより高い利回りを要求している。
◎短期化する国債発行
短期債と長期債の利回り格差は大きく拡大しており、政府にとって長期間の資金調達コストは相対的に高くなった。財政悪化への懸念に加え、中銀による保有債券の縮小や、日本や英国などで保険会社や年金基金といった伝統的な長期債投資家が購入を減らしていることも、この流れを強めた。
こうした状況を受け、多くの政府は満期の短い国債の発行比率を高めている。しかしこれは返済や借り換えの時期が早く訪れることを意味し、市場金利が上昇した際に利払い負担がより速く増えるというリスクも伴う。
◎増大一方の債務
G7ではドイツを除き、政府債務は国内総生産(GDP)と同水準、もしくはそれを上回る規模に達している。08年の世界金融危機、11-12年の欧州債務危機、そして20年の新型コロナウイルス禍はいずれも各国債務を押し上げ、経済成長を圧迫した。
近年ではロシアとウクライナの戦争やイランでの戦争に加え、猛暑などの異常気象がさらなる財政支出を必要としている。
G7の中で最も債務比率が高いのは日本で、政府債務はGDPの2倍を超える。かつて財政規律の象徴とみられていたドイツも、現在は借入を拡大。ドイツ財務省はロイターに対し、ロシアの脅威に対応する大規模な防衛投資が資金需要と借入コストを押し上げていると説明した。
今後も高齢化、利払い費の増加、防衛費や気候変動対策費の拡大によって、債務水準はさらに上昇する恐れがある。
◎膨らむ利払い負担
新型コロナウイルス禍後の高金利環境は、各国政府の利払い費を押し上げている。多くの国では歴史的なピーク水準にはまだ達していないものの、経済規模に対する利払い費の割合は近年着実に上昇しており、とりわけ米国でその傾向が顕著だ。実際、経済協力開発機構(OECD)加盟国全体では24年の時点で、利払い費が防衛費を上回った。
◎高まるリスクプレミアム
米国債市場では、長期債を保有するリスクに対して投資家が求める追加利回りを示す「期間プレミアム(タームプレミアム)」が、新型コロナウイルス禍以降上昇基調にある。背景には、米国の財政運営への懸念、米連邦準備理事会(FRB)による保有資産圧縮、長期的なインフレを巡る不確実性、さらにFRBのウォーシュ議長体制下での政策運営や情報発信への懸念などがある。
こうした現象は米国だけではない。OECDによると、主要加盟国全体の期間プレミアムは最近、過去10年以上で最も高い水準に達した。
◎欧州債務危機からの変化
一部の国では改善している指標もある。具体的にはユーロ圏各国の国債利回りが、欧州で最も信用力の高いドイツ国債に対してどの程度上乗せされているかを示す「スプレッド」だ。ユーロ圏は、ギリシャが金融支援を受け、単一通貨ユーロの存続さえ危ぶまれた欧州債務危機を乗り越え、大きく変化した。
その代表例がイタリアで、かつて財政不安の象徴とみなされていたが、新型コロナウイルス禍後に強まった欧州域内の結束、政治の安定、そして財政赤字の縮小を背景に、債務リスクプレミアムは最近、08年以来の低水準まで低下した。
対照的にフランスでは24年の総選挙以降の政治的分断により財政赤字削減への取り組みが停滞し、国債に対する投資家のリスク評価が高まっている。来年に重要な選挙を控えるフランスについては、政府が7月に公表した第三者報告書でも、歳出抑制策を早急に講じなければ、今後10年間で財政状況が大きく悪化するとの警告が示された。
◎日本市場への警戒
日本の10年国債利回りは1990年代半ば以来となる3%到達目前の水準にある。物価上昇や財政悪化への懸念、金融政策への期待変化が重なり、長年にわたって超低金利に支えられてきた日本の債券市場は大きな転換点を迎えている。
世界で最も債務比率の高い先進国である日本で財政懸念を再燃させているのが、高市早苗首相による積極的な財政支出計画だ。国債入札は市場のストレスを測る重要な指標として注目されており、ここ数カ月で利回りは急上昇した。
政府は需要安定化を図るため超長期債の発行額を削減したが、それでも借入コストにはなお上昇圧力がかかっている。
そしてこの問題は世界全体にも波及しかねない。より高い国内金利が日本の投資資金を国内市場へ呼び戻せば、長年にわたって米国や欧州の債券市場を支えてきた日本マネーの流れが変化し、世界の金融市場に大きな影響を与えかねない。