Brad Heath

[ワシントン 19日 ロイター] - 春のある深夜、米首都ワシントンのナイトクラブに3人の警察官が駆けつけた。警察の報告書によると、歩道に倒れていた若い女性を足で踏みつけていた男の暴行を警察官が止めて逮捕した。こうした暴行事件は、どの都市でも起こり得る種類のものだったが、報告書を作成した警察官ハビエル・ヒメネス氏が特に気になった点があった。それは「現場周辺には定期巡回中の州兵約15人がいたのに、誰一人として行動を起こさなかった」ことだった。

トランプ大統領は昨年夏に「犯罪との全面対決」を掲げ、その象徴的な施策として数千人規模の州兵をワシントンに派遣。現在も毎日、迷彩服と防弾装備を身に着けた兵士たちが、観光客の多い地域を巡回している。対象となるのは国立記念碑周辺や地下鉄駅、メジャーリーグの球場周辺などだ。

だがロイターが調べた結果、彼らが実際に犯罪と戦う場面はほとんど見られない。昨年8月の派遣開始以降、トランプ氏がワシントンに送り込んだ州兵が登場する刑事事件は、市内の刑事事件の大半を担当する裁判所に提起された全刑事事件のうち約1.3%に過ぎなかった。しかもその多くでは州兵は逮捕した側ではなく、犯罪被害者として記録されていた。

現在ワシントンに配備されている州兵は約4500人で、市警察官の約3200人を上回る。予算もより高額だ。トランプ政権は昨年、州兵派遣に1日当たり約165万ドルを要すると議会に説明していた。さらにその後、動員数は倍増している。市警察の予算は1日当たり約150万ドルだった。

政権は、トランプ氏の任期終了となる2029年まで州兵派遣を継続する方針を議会に示しており、総費用は14億ドルに達する見込み。ただ派遣規模については明らかにしていない。

ロイターはこの派遣の実際の効果を把握するため、裁判所に提出された全ての公開起訴書類を調査し、弁護士、住民、軍関係者らに取材。それに基づくと州兵は主として、市内でも比較的裕福で白人住民の割合が高く、犯罪率の低い地域で軽微な事案に対応していたことが分かった。

一方過去5年間に発生した市内859件の殺人事件の約82%が集中した地域では、州兵が何らかの法執行活動を行った記録は裁判資料から確認できなかった。

ホワイトハウスは州兵の活動に関する質問には回答しなかった。ローレン・ビス報道官は「トランプ大統領の取り組みで犯罪は減少し、街は美しくなり、多くの人々の生活の質が向上した」と述べた。

州兵派遣を「問題がある」と批判しているワシントンのバウザー市長はコメントを拒否し、市警察も取材に応じなかった。

派遣部隊を管理する州兵任務部隊も活動内容や費用について回答せず、報道官は「兵士たちは忙しく、取材に応じられない」と説明した。

州兵らは時折けんかや暴行を止めることもある。しかし彼らが身柄の拘束を行った事件の多くは軽微なものだった。例えば昨年10月には、ピザを2切れ持ち去り、代金として2ドルだけ支払おうとした男を追跡したり、その1週間後には、バスに石を投げた男を止めたりしている。

今年4月には、薬局から約7ドル相当のビーフジャーキー2本を盗んだとして男を拘束。先月には清涼飲料水1本を飲んで代金を払わなかった女を6人の兵士が取り押さえた。

州兵が頻繁に巡回しているネイビーヤード地区に住む牧師のウィリアム・ヤングさんは「州兵によって安心感が高まるか」と問われると「むしろわれわれ全員に恐怖心を植え付けている。この国の首都は、兵士たちが街を行進して守るような形で保護されるべきではない」と強調した。

<限定的な執行権限>

ロイターは州兵が登場する刑事事件を217件確認し、そのうち62件では州兵だけで容疑者を取り押さえていた。内容は万引きや地下鉄無賃乗車などが中心。さらに43件では州兵が警察の逮捕活動を支援していた。

地域団体が入手した映像には、夜間に20人以上の兵士が地下鉄駅前に並び、若者を対象にした夜間外出制限を執行するため、若者たちがエスカレーターを下るのを阻止する様子も映っていた。

ユニオン・テンプル・バプテスト教会の牧師ノーマン・ニクソンさんは「全米から人を連れてきて、とにかくそこに立たせているようなものだ。実際の警察活動より、住民への嫌がらせの方が多い」と不満を口にする。

政府文書に基づくと、州兵は連邦保安官補として権限を付与されているものの、法執行権限は限定的だ。国防総省はその任務を「プレゼンス・パトロール」と説明し、犯罪への対応というより、抑止効果を狙った存在感の誇示だとしている。州兵は容疑者を拘束できるが、正式な逮捕には警察官を呼ぶ必要がある。裁判資料には州兵が犯罪の目撃者となった事例が35件記録されている。その中には警察到着まで見守っただけのケースもあった。

州兵は警察に対し、麻薬取引や公然放尿、地下鉄警官へのわいせつ行為、駅前の記念碑にチョークで落書きをしていた2人組などを通報していた。

エブリン・ジョーンズさんは、今年4月にウォーターフロント地区のホテルやレストラン街近くで刺殺された甥のキオン・ジョーンズさんを救うことができたのではないかと今も考えている。州兵は争いの後に倒れているキオンさんを発見し、救急への通報を行った。しかし彼らは、キオンさんが単に酔っているだけだと考えていたという。

実際には重傷で、警察が到着した時には腸が体外に露出するほど深刻な状態だったため、搬送後約2時間で死亡した。

エブリンさんは「助けるためにもっとできることがあったはずだ」と訴えた。

州兵自身が犯罪被害者になる例も少なくない。昨年にはホワイトハウス近くで南部ウェストバージニア州出身の州兵2人が銃撃され、そのうち1人が死亡した。ロイターは州兵への暴行や脅迫で起訴された事件を62件確認。容疑内容には、突き飛ばしや殴打、脅迫が含まれ、9件では唾を吐きかけたとして告発されていた。

<治安の良い地域を巡回>

米国では長年にわたり、州兵は自然災害対応やスーパーボウルなどの大規模イベント警備、あるいは暴動鎮圧のために活用されてきた半面、日常的な犯罪対策に投入されることはほとんどなかった。

トランプ氏は南部テネシー州メンフィスと南部ルイジアナ州ニューオーリンズにも比較的小規模な州兵派遣を認めており、他都市への展開についても言及している。

2012年まで州兵総局副局長を務めた退役陸軍大将ランディ・マナー氏は「武装した兵士をアメリカの街頭に配置するべきではない」と言い切り、州兵は警察業務への訓練が十分ではなく、費用面でも警察官を増員する方が効率的だと話す。

もっとも州兵の犯罪抑止効果を正確に測定することは容易ではない。政権は州兵に加え、数百人規模の追加連邦捜査官も首都に派遣しており、彼らは事実上の地域警察として機能していた。

またワシントンの殺人件数は3年連続で減少したが、州兵も連邦捜査官も追加投入されていない都市でも同様の減少傾向が見られる。

ワシントン市警の統計に基づくと、今年1月から8月中旬までの暴力犯罪件数は逆に前年より約4%増加している。暴力犯罪には殺人に加え重大傷害事件、強盗、性犯罪が含まれる。

超党派系シンクタンク「ニスカネン・センター」が5月に公表した研究では、州兵派遣によって自動車盗難は減少した一方、暴力犯罪への影響は確認できなかった。

これに対して保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」の上級研究員、チャールズ・スティムソン氏は、州兵の存在自体が犯罪抑止力になっていると主張。「スピード違反をしていて警察官を見れば速度を落とす。同じことだ。もし州兵が明日突然いなくなれば、犯罪は増えるだろう」と反論する。

だがロイターが裁判資料を分析したところでは、州兵が高犯罪地域で活動していたことを示す証拠はほとんど見つからなかった。

むしろ州兵が登場する事件は、所得水準が高くて大学卒業者の割合が多く、白人住民の比率も高い地区に集中していた上に、その多くは市中心部や地下鉄駅周辺で発生していた。

ロイターは、州兵が警察を支援したり、逆に警察の支援を必要とした事件の発生場所を特定し、市内全域の人口統計や犯罪データと比較した。

もちろん、州兵が配置されながらも警察と接触しなかった場所は分析対象に含まれていない。しかしこの調査結果は、州兵の配置が過去に凶悪犯罪に悩まされた地域の治安改善を主目的としていなかった可能性を示唆している。

市南東部の低所得地域で活動する非営利団体「アナコスティア・コーディネーティング・カウンシル」のアウトリーチ担当者、サリム・アドフォ氏もこの見方に同意して「私は今年に入ってから、州兵を一度も見ていない」と証言した。

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