Stine Jacobsen Tom Little
[コペンハーゲン/レイキャビク 19日 ロイター] - アイスランドで29日、欧州連合(EU)加盟交渉を再開するかどうかを問う国民投票が実施される。今月のギャラップによる世論調査では賛成、反対がともに46%で拮抗しており、行方は読めない。その結果は、アイスランドが今後も従来の独立路線を維持するのか、それとも欧州との関係強化に向けて新たな一歩を踏み出すのかを占う重要な試金石となりそうだ。
今回の投票はEU加盟自体の是非を決めるのではなく、2009年に始まって13年に中断された加盟交渉を再開するかどうかを問う。交渉が妥結した場合でも、実際の加盟には改めて国民投票が必要となる。
争点の中心となっているのは、漁業を巡る主権問題だ。アイスランドでは1970年代、英国との間で「タラ戦争」と呼ばれる漁業権紛争が発生。アイスランドは外国漁船の操業制限を拡大し、最終的に自国水域に対する管理権を確立した。この勝利は経済的自立と国家主権の象徴として今も国民意識に強く刻まれている。
こうした歴史的経緯から、EU加盟交渉再開に慎重な有権者の間では、EUの共通漁業政策の下で漁場管理権が制約されることへの懸念が根強い。
タラ戦争当時に沿岸警備隊で任務に就いていたシグルビョルン・スバルソンさんは「われわれが勝ち取ったものを失うのではないかという恐れがある」とし、交渉再開に反対する考えを示した。
一方で交渉再開支持派は、人口約40万人の島国が欧州との連携を強化し、経済的な安定や国際社会での発言力向上を図る必要があると主張する。
同じくタラ戦争を経験した元沿岸警備隊員のギルフィ・ゲイルソンさんは「孤立した島であり続けることはできない。近隣諸国との協力が必要だ」と語り、まずは交渉を再開して条件を見極めるべきだとの立場を示した。
今回の議論では、漁業だけでなく生活費高騰や安全保障も重要な論点となっている。アイスランドは北大西洋条約機構(NATO)加盟国だが、自前の軍隊を持たず、防衛は主として米国との防衛協定に依存している。近年はトランプ米大統領によるグリーンランド取得を巡る発言などを受け、米国との関係や安全保障体制を見直すべきとの議論も広がっている。
グンナルスドッティル外相はロイターに、NATOと米国との防衛協力が引き続き安全保障の基盤になるとしながらも、EU加盟は「経済安全保障の面で有益な補完となり得る」との認識を示した。
ビフロスト大のエイリークル・ベルクマン教授は、漁業がアイスランドの経済的独立の基盤であり「主権の象徴」となっていると指摘。一方でトランプ氏とグリーンランドを巡る問題などを受け、米国との関係や安全保障体制を見直す議論も活発化していると言及した。
多くの人にとって今回の投票は結局のところ、より低い金利などの経済的メリットや欧州の意思決定に参加する権利を得る代わりに、漁業や国家の自己決定権をある程度手放す価値が果たしてあるのかという問題に突き当たる。
その点でアイスランドがかつてデンマークの統治下に置かれていた歴史も、EU加盟を巡る議論に影響を与えている。レイキャビク在住のデザイナー、フロキさん(27)は「アイスランドはかつてデンマークの植民地だった。重要なのは国家として自ら選択し、決定する権利を維持することだ」と訴えた。