窒素と水素で構成される化合物、アンモニアが話題になることはめったにない。だが現代生活の大部分は、アンモニア頼みだ。

肥料の主要原料として食料供給に役立ち、カーボンフリー(二酸化炭素〔CO₂〕の排出量ゼロ)燃料としても注目されている。

問題は作り方だ。世界で生産されるアンモニアはほぼ全て、約1世紀前に開発されたハーバー・ボッシュ法で合成されている。大気中の窒素と水素を、400~500度の高温で地上の大気圧の200倍以上の圧力で直接反応させてアンモニアを作る方法だ。

非常に有効な技術だが、世界のエネルギー供給量の約2%を消費し、CO₂排出量の1~2%を占めている。

別の道は存在する。最も一般的な水質汚染物質の1つ、硝酸イオンを、再生可能エネルギー電力を利用してアンモニアに直接変換する方法だ。

筆者らを含むマクマスター大学(カナダ)の科学者チームが昨年、発表した研究が示すように、特別に設計した鉄ベースの触媒を使えば、この変換はより効率的になる。水中の汚染物質を除去しながら、必要度の高いアンモニアを作れれば、2つの環境問題に同時に取り組むことができる。

硝酸イオンを再エネ電力でアンモニアに変換

国際再生可能エネルギー機関によれば、世界の年間アンモニア需要は2050年までに、現在の生産量の約4倍の7億トンに達する。既存技術で需要増に対応すれば、今後数十年にわたって大量のCO₂を排出し続けることになる。

硝酸イオンによる水質汚染は広範囲で拡大している。従来どおり、硝酸イオンを窒素ガスに変換して大気中に戻す水処理法では、窒素が無駄になる。元をたどれば、その窒素はエネルギーを費やして空気中から取り出したものだ。

よりよい選択肢は、風力・太陽光発電の電気を用いた電気化学反応器で、硝酸イオンを室温・常圧でアンモニアに変換することだ。肥料として使われたアンモニアに由来する汚染物質を、肥料やクリーン燃料として再利用できる。

どんな電気化学技術も、中核を担うのは触媒だ。筆者らは、異なる化学基を端部に結合した鉄ベース分子触媒を4種類設計し、実験を行った。

この分野の常識では、最も有効なのは最も効率的に電子を動かす触媒のはずだが、判明した事実はより興味深い。

下水処理場が肥料・クリーン燃料生産の拠点に

電子の伝達能力と同様に重要だったのは、触媒表面と水、および溶解した硝酸イオンとの相互作用だ。つまり、化学反応を起こす活性部位に、水や硝酸分子が届きやすいかどうかがカギを握る。

実験では、農業・産業排水と同じ硝酸イオンを含む水溶液に電流を流したところ、化学変化で硝酸イオンがアンモニアに変換された。

とはいえ、管理された条件下での実験と異なり、産業規模で実現するには大きな課題が残る。

このギャップの解消を焦点に、研究の次段階ではアンモニア生産率を引き上げ、実際の排水を用いたより乱雑な条件の下で触媒を試験する。

成功すれば、得られるものは大きいはずだ。各地の下水処理場が、再生可能電力による肥料・クリーン燃料生産の拠点に変わる可能性がある。

もちろん、それはまだ未来の話だ。だが化石燃料なしに汚染物質からアンモニアを作る技術の進歩は、そんな未来を少しずつ現実にしている。

Reference

Noor N; Argentino C; Irannezhad A; Wuttke A; Masouminia M; Schouten A; Pegrum K; LeBreton M; Eslami R; Higgins D. Decoupling the Impact of Electronic Structure and Electrode Wettability of Functionalized Iron Phthalocyanine Catalysts for Electrochemical Nitrate Reduction to Ammonia. Journal American Chemical Society, 22 April 2026; 148 (15): 15859–15872. https://doi.org/10.1021/jacs.5c22794

The Conversation

Navid Noor, Postdoctoral Fellow, Higgins Lab, McMaster University and Drew Higgins, Assistant Professor, Department of Chemical Engineering, McMaster University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

POINT(本誌サステナビリティ室長 森田優介)

newsweekjp20250624060949.png肥料とエネルギーの両面で、今や経済安全保障上の戦略物資ともなったアンモニア。排水から生成でき、環境問題の解決にもつながるなら朗報です。日本でも同様に、「グリーンアンモニア」の研究開発は進んでいます。


 

 
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