アルシアさんの置かれた苦境は、イラン全土に広がっている。米軍の攻撃で工場や発電所、輸送網などの重要インフラが被害を受け、既に疲弊していた経済への圧力は一段と強まっている。
南部の港湾都市バンダルアッバスで暮らすモフセンさん(53)は、イランが米国による空爆への報復として同地域の米軍基地や資産を標的にしたことを受け、経営していた湾岸諸国との小規模な輸出入事業を閉鎖せざるを得なくなったという。「従業員10人を解雇せざるを得なかった。つらい決断だったが、彼らに給与を払い続ける余裕がない。今は家族を養うため、貯蓄を取り崩している」
インフレと先行き不安が家計を圧迫
イラン統計センターによると、7月の年間インフレ率は66%に到達し、消費者物価指数(CPI)は前年同月比で87.9%上昇。食料品価格の上昇率は前年同月比128%に達している。
指導部にとって最大の脅威は、経済的苦境そのものではない。生活苦の悪化が大規模な抗議や騒乱を再燃させるリスクにあると、政界関係者2人と当局者1人は指摘する。
高官人事にも当局の懸念が表れていると元改革派当局者は言う。先週、イランの民兵組織「バシジ」の司令官に起用されたホセイン・タエブ氏は、過去の弾圧を主導した人物の1人だ。バシジは準軍事組織として強力なイランの「イスラム革命防衛隊(IRGC)」と連携し、聖職者支配層が抗議行動を鎮圧するために投入されてきた。
近年、イランではたびたび、経済的不満が全国規模の抗議デモへと発展している。1月には、生活苦を背景とした反政府デモが全国に広がったが、IRGCとバシジによって鎮圧され、数千人が死亡した。