Tamiyuki Kihara Yoshifumi Takemoto
[東京 5日 ロイター] - 高市早苗首相(自民党総裁)が掲げる飲食料品の消費減税が5日夕、正式な政府方針として閣議決定される。高市氏の方針表明からわずか6日。一連の手続きがこれだけ「順調」に進んだ背景には、高市氏が周到に整えた戦略と、党内の構造変化があった。日本の金利上昇が米国債市場に波及することに米政権が神経をとがらせる中、政府は年末にかけて経済・防衛分野などで大きな政策判断を迫られる。今回の意思決定プロセスは、一つのモデルケースになる可能性もある。
<「社会保障に影響が出ないような財源で」>
「全会一致で了承いただいた。消費税を1%に引き下げ、実質ゼロで対応していきたい」。5日午前、都内で開かれた自民の臨時総務会を終え、小野寺五典・税調会長は記者団にこう述べた。
総務会での了承は、党内手続きの完了を意味する。小野寺氏によると、出席者からは「社会保障に影響が出ないような財源でしっかり対応してほしい」などの意見が出た。ただ、かねてから消費減税の反対を唱えていた総務会メンバーが欠席したこともあり、会合は粛々と進み、10分ほどで終了した。
政府は閣議決定を経て、減税の制度設計を示す「大綱」を9月にも作成する方針だ。その上で、秋に予定する臨時国会に関連法案を提出し、早期の成立を目指す。2年間で10兆円とも言われる財源については、自民の鈴木俊一幹事長が「政府として法律や国会審議などで明確に答えていかなければならない」と述べるなど、市場の信認をどう確保するかも含めて残された課題となる。
<「役員会で了承、反対言いづらく」>
消費税が1989年に導入されて以降、減税となるのは初めてだ。歴代政権は税率を上げるたび、厳しい世論の批判にさらされてきた。逆に、一度下げれば二度と上げられなくなるとの懸念も強い。あらゆる経済対策の中でも、政府与党内で「消費減税は最後の手段」と言われてきたゆえんだ。
それが今回は、党内手続きのスケジュールが、ほぼ高市氏が描いた通りに進んだ。決め手の一つとなったのは、7月30日の党臨時役員会だ。前々日の28日、高市氏は麻生太郎副総裁、鈴木幹事長と面会。翌29日、事情を知る政府関係者はロイターの取材に、「高市氏は党役員会で減税方針を『ピン止め』しようとしている。麻生氏と鈴木氏にも根回し済みだ」と明かしていた。
実際、30日の役員会で高市氏が「実質ゼロ案」を正式表明すると、出席した幹部らから反対意見は一切出なかった。役員会は党の政策決定機関ではない。それでも「幹部らの全会一致」は、減税賛成派の議員らにとって十分な大義名分となった。ある政務三役経験者は「役員会で先に了承されてしまったことで、その後は減税反対を言いづらくなった」と振り返った。
役員会の「効果」もあり、2回にわたって開かれた税制調査会の会合では、雪崩を打つように減税賛成の声が広がった。小野寺税調会長に判断を一任した8月3日の会合では、「公約を守らなければ信用を失う」と声を張り上げる議員に大きな拍手が沸き起こる一方、「財源や農業、外食産業への支援策など中身が詰まっていない」などとする反対意見への拍手はまばらだった。発言した75人のうち、賛成意見は8割を超えた。
自民関係者は、「賛成派には会合に出席するよう動員がかかったとも言われている」としつつ、「そもそも当選したばかりの1期生や『高市人気』で辛勝した議員は、高市氏のおかげで当選したのだから意向に逆らえるはずがない」と話した。
<「高市氏の意向に逆らうだけ無駄だ」>
さらに、国会の勢力図も党内の空気感に変化を生んでいる。2月の衆院選で316議席の歴史的大勝を遂げた自民は、衆院で単独で3分の2以上の議席を有する。仮に減税関連法案が参院で採決に至らなくても、60日たてば衆院での再可決が可能となる「60日ルール」を行使できる環境は整っている。
前出とは別の政府関係者は、高市氏が消費減税の実現に一貫して強気な姿勢を見せていたと証言する。党内でくすぶる反対論に対し、「減税が嫌なら離党すればいい、というくらいの迫力だった」とした上で、「いざとなれば60日ルールでも何でも使うつもりなのだろう。高市氏の意向に逆らうだけ無駄というのがいまの自民だ」と解説した。
日経新聞は5日、ベセント米財務長官のインタビュー記事を配信した。その中でベセント氏は安倍晋三元首相が進めたアベノミクスに言及。「15年間という景気刺激が持続的で強固な経済基盤をつくった。アベノミクスの段階は終わりタカイチノミクスの時期だ」と述べた。日本の緩和的な財政・金融政策の転換を暗に求めた発言との指摘もある。
木原稔官房長官は5日の記者会見でベセント氏発言の受け止めを聞かれ、コメントは控えるとしたうえで、「利上げも含め金融政策の具体的手法は日銀に委ねられるべき」などと従来の見解を繰り返した。
高市氏は年末にかけて来年度予算や防衛費増額などに取り組むことになる。消費減税と同様、今後の重要政策の議論でも高市氏は自身の意向を押し通すのか。消費減税反対を唱えた党所属議員の一人は、「堂々と政策を論じ、耳を傾けるのが国民政党たる自民の本来の姿だ」と釘を刺した。
(鬼原民幸、竹本能文 編集:橋本浩)