Samia Nakhoul

[ベイルート 3日 ロイター] - イランは、中東の貿易ルートや海上航路、エネルギーインフラといった米国の「急所」を突き、紛争のコストを徐々に引き上げれば、米国との持久戦に持ちこたえられると見込んでいるーー。イランの戦略について、湾岸諸国の政府関係者やアナリストはこうした見方を示している。

イランは軍事面で決定的な勝利を目指すのではなく、全面戦争には発展させない範囲で紛争を拡大する、段階的なエスカレーション戦略を採っている。狙いは米国とその同盟国に、危機を封じ込めようとする方が、ホルムズ海峡を巡るイランの要求受け入れよりも高くつくと認識させることだという。

米国がホルムズ海峡におけるイランの役割拡大という「新たな現状」を受け入れない限り、紛争は湾岸地域の外へ拡大しかねないというのが、イランが発しているメッセージだ。イランは、海上交通の要衝やエネルギー関連施設を危険にさらすことで、今後の協議で自らの交渉力を高められると考えている。

米シンクタンク、ワシントン研究所のマイケル・ナイツ氏は「イランは当初から、毎週新たなエスカレーションの選択肢を提示することにより、米国を上回る形で緊張を高めようとしてきた。新たな地域、新たな兵器、新たな攻撃対象を次々と持ち出している」と指摘。「イランの最大の強みは、米国やイスラエルに打撃を与えられることではない。真の強みは、湾岸諸国と世界経済に損害を与えられる点にある」と述べた。

<脅威の拡大>

戦争前に世界の石油消費量の約5分の1が通過していたホルムズ海峡で航行を妨害できる能力を示したイランは、いかなる海上交通の要衝も標的になり得るとの姿勢を示している。紅海やサウジのエネルギーインフラに対する脅しは、世界の物流を守るコストを高めると同時に、混乱に対する米国の忍耐力を試そうとする、より広範な戦略の一環とみられる。

湾岸諸国の関係者の1人はこの戦略について、イラン革命防衛隊の司令官らの間で「もっと多くの譲歩を引き出せる」との認識が共有されていることを反映していると説明した。司令官らは、11月の中間選挙を前にしたトランプ米大統領が、中東で新たな紛争に深入りすることを避けたがっていると判断し、そこに付け入る余地があるとみている。

この関係者は、「イラン側は、戦争を拡大し圧力を強めれば、最終的にトランプ氏が譲歩すると考えている」とした上で、「トランプ氏はイランに強力な打撃を与え、交渉の席に引き出せると考えているが、イランは屈しない」と語った。

<エスカレーションで譲歩引き出す>

こうした判断がイランの交渉戦略を支えている。

トランプ氏は、ホルムズ海峡の再開に向けた合意を期待し、直前に迫っていた攻撃を取りやめたと明かしたうえで、イランとの協議が3日に行われると述べた。一方、イラン政府は現時点で米国との協議は行っていないとしている。

イラン政府高官によるとイラン指導部は、これまで柔軟姿勢を示しても米国からの圧力が強まるだけだったと総括し、本格的な交渉を始める前にまず交渉力を確立する必要があるとの認識を強めている。イラン側は、トランプ氏は譲歩を弱さと受け止め、圧力に対してしか反応しないと判断しているという。

ワシントン研究所のマイケル・シン上級研究員は、イランは依然として自分たちが主導権を握っていると考えていると指摘。その理由の1つに、トランプ政権が軍事行動をどこまで拡大する意思があるのか明確ではないことを挙げた。「イランは自らの優位性を最大限に活用しようとしている。ホルムズ海峡に対する主権を確立し、水路を選択的に管理する権限を手に入れることを目指している」と述べた。

元米外交官でイラン問題専門家のアラン・エア氏は、イランは米国に封鎖解除と軍事攻撃停止を迫る「抑止戦略」を進めていると分析。「イランは米国に事態の主導権を握られたくない」と話した。

対立の核心にあるのは、ホルムズ海峡を今後どのように管理するかという問題だ。地域筋によると、オマーンは湾岸諸国が支持する管理案をイラン側に提示し、その中には利用船舶から任意の利用料を徴収する案も含まれている。

しかしイランは、海峡の管理権限そのものと、航行船舶からサービス料を徴収する権利を求めている。一方、米国は料金徴収を一切認めず、ホルムズ海峡はイランの管理を受けない国際水路であり続けるべきだとの立場を崩していない。

<「持久戦」という賭け>

イランの戦略は狙い通り結果も生み出している。脅威がホルムズ海峡以外にも拡大する中、中東諸国や欧米各国は、イランへの圧力強化よりも、貿易ルートやエネルギーインフラの防衛を優先するようになっている。

代表的な例が、サウジ主導で進む海上安全保障の枠組みだ。湾岸諸国の関係者によると、この枠組みはイランとの直接対決ではなく、商船の護衛、情報共有、航路の安全確保に重点を置く防衛的な仕組みとなっている。

ナイツ氏はこの取り組みを、紅海で商船保護を目的に導入された欧州の海洋安全保障作戦「アスピデス」に例える。この作戦も、軍事バランスの変化ではなく海上物流の維持が目的だ。

イランにとって、こうした展開自体が一定の成果を意味する。米軍と正面から軍事力を競うことはできなくても、各国政府や海軍を防御対応に追い込むことで、相手にコストを負わせることができるからだ。

ホルムズ海峡、紅海とアデン湾を結ぶバベルマンデブ海峡、あるいはその他の海域で新たな脅威が生じるたびに、世界の物流を維持するために必要な人員や装備、費用は増大していく。

この対立の本質は「持久戦」であり、イラン指導部は、米国主導の陣営が世界の物流やエネルギー市場への混乱を繰り返し受け入れ続けるよりも、自国の方が経済的圧力に長く耐えられると考えているようだ。そして、この戦略には外交的な狙いもある。必要に応じて危機をさらに拡大できる能力を示すことで、最終的な交渉の条件設定を有利に進めようとしているのだ。

米外交問題評議会のレイ・タケイ氏(元米国務省イラン担当顧問)は「交渉が行われるのであれば、その条件はイラン側が決めることになるだろう。双方ともエスカレーションにはエスカレーションで対抗している」と述べた。

もっとも、現時点では双方とも譲歩の姿勢は見せていない。米国とイランが互いの決意を試し続ける中、交渉力を最大化するために採られた戦略が、最終的には双方とも完全には制御できない衝突へと発展するリスクは依然として残っている。

Reuters Copyright (C) 2026 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。