Kentaro Okasaka

[東京 28日 ロイター] - 日本の防衛・安全保障分野で、民間スタートアップが持つ先端技術を取り込もうとする官民の動きが強まっている。防衛省・防衛装備庁は従来の大手重工メーカー中心の調達に加え、人工知能(AI)や無人機、宇宙、通信、サイバーなどの分野で新興の技術を防衛力に生かす仕組みづくりを急ぐ。

ただ、国内では防衛分野に慎重な空気感が残り、資金調達が難しく米国での起業を選んだ若者もいる。急成長を求める起業家とのミスマッチを指摘する声もある。現状と課題を上下2回で探る。

<ソフト化で変わる防衛技術>

「もはや民生用の技術と安全保障用の技術の区別が難しい時代となった。両分野の境界線を越え、防衛生産技術基盤の強化を進めていく」。小泉進次郎防衛相は5月、名古屋市のスタートアップ企業を訪問し、こう語った。

防衛当局がスタートアップに目を向ける背景には、必要とされる防衛技術そのものの変化がある。従来、日本の防衛産業は三菱重工業や川崎重工業などの大手メーカーが艦船、航空機、ミサイル、車両などのハードウェア製造を担ってきた。だが長年、防衛装備の輸出が制限され、防衛省以外に売り先が乏しかったこともあり、技術開発のサイクルは遅くなりがちだった。

一方、民生分野で先端技術を磨くスタートアップは意思決定や開発スピードの速さが強みだ。当局者は「装備品の性能発揮のカギはソフトウエアが握るようになっている。そうした分野でスタートアップが重要な技術を持つようになっており、連携を進めていくことが課題だ」と話す。

<環境整備に動く当局>

こうした流れに呼応するように、政府系金融機関や公的ファンドが相次いで方針転換を決めた。日本政策投資銀行(DBJ)は最近、国際条約で禁止される非人道兵器を除き、武器関連製品事業への投資制限を撤廃した。国が設置した10兆円規模の大学ファンドを運用する科学技術振興機構(JST)も、防衛関連企業への投資制限の緩和を決めた。

防衛当局も、防衛産業への参入を促し、優れた技術を迅速に装備品に活用するため「ファストパス調達」や「スタートアップ随契」など機動的な調達制度の整備を進めるほか「スタートアップ活用伴走支援グループ」も設置。4月にはスタートアップやベンチャーキャピタル(VC)関係者を集めた交流イベントを開催した。小泉防衛相は「新しい戦い方」への対応にはスタートアップの力が不可欠だと訴えた。

<参入模索>

若手主導のスタートアップからは、防衛分野への参入を模索する動きが相次ぐ。

2025年設立の「SolaNika(ソラニカ)」の菊池舞代表(29)は、次世代インフラとして期待される「レーザー無線給電システム」の実用化を急ぐ。飛行するドローンの受光セルにレーザーを追尾・照射し続ける技術で、長時間の連続飛行を可能にする。自衛隊の基地警備などへの採用を目指す菊池氏は「レーザーを当て続ければ、バッテリー交換や充電の必要なく、ずっと空から監視することができる」と説明する。「スタートアップの先端技術は、これまで実現が難しかったことを可能にし、民生や防災、安全保障など幅広い分野で新たな価値を生み出す可能性がある」

宇宙スタートアップ「cosmobloom(コスモブルーム)」は、膜などの柔軟構造物を宇宙空間で精密に展開する技術を活用した「膜面アンテナ」の開発を進める。ロケット打ち上げ時には小さく折り畳み、宇宙で大きく広げ、将来は携帯電話やパソコンなどの端末との直接通信に活用する構想だ。離島や国境地帯の通信インフラ整備も念頭に、防衛当局との協議も進める。福永桃子代表(31)は「宇宙技術は人々の暮らしや社会インフラを支える重要な基盤になると考えている。民生向けを軸に安全保障など社会に必要とされる用途にも貢献し、日本のために役立ちたい」と話す。

<マッチングの場>

ただ、スタートアップにとっては自衛隊の実際の運用ニーズや作戦コンセプトを理解していなければ、防衛分野への進出は難しい。こうした壁を取り払うため、民間主導の新たなマッチングの場も生まれている。

元航空自衛官の上村康太氏(48)が社長を務める「BLUE VECTOR(ブルーベクター)」は、退職自衛官のプロチームを擁し、スタートアップの防衛参入に伴走する。上村氏は「スタートアップの皆さんは防衛のニーズが分からず、情報の非対称性が問題だった。元自衛官が出ていって現場感を持ってそのニーズを伝えれば、各スタートアップが事業仮説を立てられる。そうすると投資家との関係も良くなり、好循環を生み出せる」と語る。

共同創業者の前原剛氏(25)は滞在していたウクライナで戦争のぼっ発を目撃した。前原氏は「東アジアでも安全保障環境が厳しさを増す中、防衛予算が増えても、その多くが海外製品の調達に流れては国内の先端技術が育たない」と語る。さまざまな領域の民間企業や投資家らを巻き込んだエコシステム(生態系)構築に向け今月、大規模な防衛参入イベントを共催。今後は精度の高い情報で自衛隊の実際の運用ニーズを解説し、共同開発等を調整する取り組みを本格的に始動するという。

海外では、スタートアップの防衛産業への活用が日本より進んでいる。新興防衛企業アンドゥリル・インダストリーズやデータ解析企業パランティア・テクノロジーズが代表的だ。ウクライナ戦争でドローンやAIなど先端技術が投入されていることも、日本でのスタートアップ活用論への追い風になっている。防衛予算の拡大を国内の技術力と産業基盤の強化につなげられるかどうかが問われている。

(岡坂健太郎 編集:橋本浩)

※〔マクロスコープ〕防衛新興に熱視線(下)起業の壁なお厚く 資金調達は難路

Reuters Copyright (C) 2026 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。