死刑制度が国連機関との協力の足枷に
シャラアは、一定の正義を実現することで犠牲者や行方不明者の家族に心の平安をもたらすと同時に、低迷する経済を立て直さなければならない。そして、国内の安定を取り戻すために、国際社会の協力を切実に必要としている。
なかでも犠牲者や行方不明者の身元確認に関して、国連シリア・アラブ共和国行方不明者独立機関(IIMP)や、オランダのハーグに本部がある国際行方不明者委員会(ICMP)の協力が重要になる。
「IIMPは国連の機関として、死刑を適用する国とは協力できないというルールがある」と、人権派弁護士で独裁政権の被害者支援に長年携わってきたリード・ブロディは語る。IIMPが集めた情報は、死刑判決があり得るシリアの裁判所では証拠として利用できない。
ICMPの規則はそこまで厳格ではないが、その協力が得られなければ、アサド政権下で連行された「強制失踪者」の身元確認はさらに難航するだろう。国内に少なくとも66カ所あるとみられる集団墓地の犠牲者の身元確認には、ICMPが持つDNA鑑定などの技術が欠かせない。アサド政権時代は制裁のために鑑定キットを調達できず、現政権に購入する資金的余裕はない。
今すぐ戦争犯罪の加害者を絞首刑にすれば、「シリアが必要とする国際社会の協力を断ち切ることになりかねない」と、ブロディは語る。
独裁政権と深刻な人権侵害の過去から立ち直る過程で、法的責任の追及と社会の安定を両立させようという「移行期の正義」の取り組みは、ようやく始まったばかりだ。ただし、それは途方もなく困難な課題でもある。国民が求める正義と、国際社会から正統性を得るための条件が、時として相反するからだ。
今年4月、アサド政権下で戦争犯罪に関与したとされる元高官について、初の公開裁判が始まった。被告のアテフ・ナジブはアサドのいとこで、南部ダルアー県で治安部門の幹部を務めていた。