Waylon Cunningham Nicholas P. Brown
[10日 ロイター] - ドローン(無人機)配送企業デクサの代表を務めるエンジニアのベス・フリッポ氏は2021年、米小売大手クローガーの食料品ドローン配送実証事業の試験プログラムを指揮するため、家族とともに東部ニュージャージー州から中西部オハイオ州へ移住した。
しかしこの取り組みはわずか8カ月で中断された。その理由についてフリッポ氏は「採算が取れなかった」と振り返る。
当時の米連邦航空局(FAA)の規制では、ドローンを操縦者の目視範囲外で飛行させることが禁止され、運航のたびに監視要員を各所に配置する必要があった。そのため人件費がかさみ、事業の拡大が困難で「規模を拡大することができなかった」という。
だがこうした状況は大きく変わろうとしている。25年6月にトランプ政権が発した大統領令を受け、FAAはドローン活用を加速させる新たな規制案を公表した。背景には、ドローン分野で中国との主導権争いが激化しているという認識がある。
ダフィー米運輸長官は25年8月に「この革新的な技術をリードするのは中国ではなく米国だ」と強調した。
この流れを受けてデクサは現在、休止中となっているクローガーとのドローン配送事業の再開に向けて協議を進めている。クローガー側はコメントを控えているが、フリッポ氏の話では、同社は最終的に目視外飛行の特例許可を取得できたものの、その承認までに4年もかかった。
目視外飛行を認める新規則が正式に導入されれば、この手続き期間は大幅に短縮される可能性があり、業界全体の成長を後押しすると期待されている。
<市場急拡大の期待>
PwCの調査担当者によると、米国のドローン市場は34年まで年平均65%という高い成長率が見込まれる。世界全体では、ドローン配送件数は25年の約1300万件から34年には8億件超へと急増する見通しだ。
現時点で市場規模は世界全体でも数十億ドル程度にとどまるが、ウォルマートは21年、アマゾン・ドット・コムは22年にドローン配送事業を開始し、それぞれ配送ネットワークの拡充を進めている。またピザチェーンのパパ・ジョンズ、料理宅配サービスのワンダーやドアダッシュなども参入し、ドローン事業者との提携を強化しつつある。
グーグル親会社アルファベットのドローン部門ウイングで最高事業責任者(CBO)を務めるヘザー・リベラ氏は「今まさに商業化の転換点にある」と指摘した。
リベラ氏は、12年の歴史を持つウイングで初めて小売業・飲食業との提携拡大を専門に担う役職として採用された。
<各企業の取り組み>
ウォルマートは現在、ウイングとジップライン両社と提携してドローン配送を展開している。フルフィルメント・イノベーション担当シニアバイスプレジデント、マイク・ウォルデン氏は、ドローン配送の利用が多いのは「今すぐ必要な商品」で、例えばアレルギー薬や猫の餌、バーベキュー直前に買い忘れに気付いたマスタードといった商品を挙げた。
ウォルマートのアプリでは、商品がドローン配送対象かどうか事前に表示される。利用者がドローン配送を選択すると、注文内容がドローンの積載重量制限に収まるかどうかをシステムが自動で確認する。現状では技術的制約から積載重量は約1.4─3.6キロ程度に限られている。
これまでに約200万件に迫るドローン配送を実施しており、その大半は今年に入ってから行われた。現在、全米約4600店舗のうち70店舗でドローン配送を導入しているが、来年末までに270店舗超へ拡大する計画だ。
一方のアマゾンも直近で南部ルイジアナ州バトンルージュに米国内100カ所目となるドローン配送拠点を開設した。配送時間は30分未満としている。
ドローン配送を巡っては、騒音やプライバシーへの懸念を示す地域住民もいる。それでも企業が投資を続ける理由は、将来的なコスト削減効果だ。
PwCは、ドローン配送1件当たりのコストが34年までに2ドル程度まで低下する可能性があると試算しており、これは従来型配送に比べ大幅に安い水準だ。
ウォルマートとアマゾンは具体的な配送コストを明らかにしていないものの、アマゾンのドローン事業拡大責任者を務めるマット・マッカードル氏は「競争力がなければ、ここまで投資を続けることはない」と言い切った。
多くの事業者は郊外地域を主戦場としている。広い庭が確保しやすく、自動車渋滞も多いことから空路による配送のメリットが大きいためだ。スピードも重要な魅力で、ウォルマートは最短5分未満で配送した実績があり、通常でも地上配送より速いケースが多いとしている。
イスラエルのフリトレックスで事業開発を担当するアミット・レゲブ氏は「誰もが可能な限り速く事業を拡大しようとしている」と業界の熱気を語る。同社は25年4月、リトル・シーザーズと提携し、ピザのドローン配送を開始すると発表した。
<成長加速の鍵>
FAAが現在検討している規制案の最大のポイントは、認定事業者に対し目視外飛行を幅広く認めること。これが実現すれば、高額で時間のかかる特例許可申請が不要となり、市場成長が加速すると予想されている。
米ドローンメーカー、マターネットのアンドレアス・ラプトプーロス最高経営責任者(CEO)は「今後数年で業界は爆発的かつ指数関数的な成長を遂げる可能性がある」と期待を膨らませた。
フリッポ氏の話では、目視外飛行が一般化すればドローン配送の事業モデルは大きく変わる。現在のように各地点へ監視員を配置する必要がなくなり、1人のオペレーターが画面上で40機のドローンを同時管理できるようになる。
時給25ドル程度のオペレーター1人で、1時間当たり約160件の配送をカバーできる計算だ。これは配送ドライバーを大量に確保する従来方式よりも大幅にコストが下がる。
デクサもワンダーなどとの提携を進めているが、フリッポ氏は「アルファベットのような巨大企業と戦うのはゴリアテ(圧倒的強者)に挑むようなもの」と率直に語る。
それでも、ウォルマートやアマゾンによる積極的な実証運用が技術革新を後押ししているのは間違いない。カーネギーメロン大学工学部のマリオス・サヴィデス教授は「ハードウエア、電池、航続距離、信頼性は運用を重ねるごとに向上している。技術は研究室ではなく現場で成熟するものだ」と指摘した。