Matt Spetalnick
[ワシントン 16日 ロイター] - トランプ米大統領はイランへの空爆を強化し、攻撃をさらに拡大する可能性を示唆している。しかし、イラン政府から譲歩を引き出すことに既に失敗した軍事戦略が今回は成功するという兆候は乏しい。
1カ月前に結んだ暫定的な停戦合意が崩壊し、トランプ氏は苦境に立たされている。同氏は、海上交通の要衝ホルムズ海峡でのイランの影響力を弱め、同国に自らの要求を受け入れさせようとしてきた。
双方は今のところ全面衝突への回帰を避けているものの、早期に打開策を見いだすとの期待は薄れつつあり、この危機は再び世界の原油価格を押し上げ、金融市場に大きな衝撃を与えている。
報復の応酬は16日で6日目に突入した。イランは、トランプ氏が警告したように米国がイランの電力インフラを攻撃した場合、イエメンの親イラン武装組織フーシ派を動かし、もう一つの重要な原油輸送ルートである紅海の入り口、バブ・エル・マンデブ海峡を封鎖する可能性を示唆している。
トランプ氏のいら立ちが強まっていることを示すように、同氏は側近らと協議し、場合によっては公の場でも、標的を発電施設や橋梁に広げる案、地上部隊を派遣してイランの原油輸送拠点カーグ島を制圧する案、地下深くにある核関連施設を爆撃する案などに言及している。
これらの選択肢の一部はリスクの高さや、国内外で激しい反発を招く可能性から、非現実的かもしれない。トランプ氏は過去にも同様の威嚇を行いながら、引き下がった経緯がある。
しかし、大半のアナリストは、米軍が大規模なエスカレーションに踏み切った場合でも、イラン指導者を排除するための危険かつ政治的に維持不可能な地上侵攻に至らない限り、イランに方針転換を迫る効果は乏しいとの見方で一致している。
米シンクタンク「アトランティック・カウンシル」のジョナサン・パニコフ氏は「今回の一連の攻撃やトランプ氏の計画により、イラン側が考えを変えるとみる理由はない」とし、「むしろ態度を硬化させる可能性が高いだろう」と予想した。
トランプ政権の高官はロイターの質問に対し、大統領の優先事項は外交であるとしつつも「イランが理解する唯一の言語は軍事力だ」とし、米国は海峡における「テロ行為」に対して引き続きイランの責任を追及していくと述べた。
<暫定合意が崩壊>
暫定合意の崩壊は、トランプ氏が戦争終結への圧力を受ける中で起きた。戦闘では主にイランとレバノンで数千人が死亡し、米国内経済にも痛手を与えている。11月の米議会中間選挙を前に、同氏の支持率も低迷している。
暫定合意を恒久的な和平合意に発展させるための交渉は停滞しているが、一部では外交的な動きの兆候も見られる。トランプ氏は、イランで拘束されていた米国民が釈放されたと説明し、この動きを称賛した。一方、イラン司法当局は、囚人が釈放または交換された事実はないと否定した。
イランはホルムズ海峡の管理に自国が関与する立場だと考えており、通行料や手数料を徴収する可能性も視野に入れているが、米国とその湾岸同盟諸国は自由航行への復帰を主張している。多くの専門家は、イランがトランプ氏の求める譲歩に応じる兆しは乏しいとみている。
イランがここ数日で船舶への攻撃を再開したことを受け、米国は暫定合意への違反だとしてイランの港湾封鎖の再開を含む最新の対抗措置を発動した。
米国はまた、イランに国際的な原油販売を認めていた制裁免除措置を撤回した。暫定合意でイランが得た成果の一つを取り消した形だ。
米政府高官3人によると、一連の米軍の空爆は、より大きな攻撃に踏み切る前にイランの軍事能力を破壊しておく「地ならし作戦」として機能する可能性がある。
これに対してイランは、トランプ氏が戦闘をエスカレートさせるなら米国の湾岸同盟国の民間施設を攻撃する可能性があると警告し、戦争拡大の準備があることを示唆した。
<脅かされる紅海ルート>
情報筋3人がロイターに語ったところでは、イランはフーシ派に対し、米国がイランの電力インフラを攻撃した場合、紅海の原油輸送ルート封鎖の準備をするよう要請した。一部の輸送が紅海に迂回しているため、これは世界のエネルギー供給にとって新たな脅威となりかねない。
しかし、ワシントンにある対イラン強硬派シンクタンク「民主主義防衛財団」を率いるマーク・デュボウィッツ氏は短文投稿サイト「X」への投稿で、この動きは世界中でパイプラインや新たな海運ルート構築の動きを加速させるだけだと指摘。イランは「やけになってホルムズ海峡というカードを切っている」と主張した。
一方、一部のアナリストは、外国への介入を避けて米国の経済問題に集中するという公約を掲げて選挙戦を戦ったトランプ氏が、2月28日の攻撃開始時と同じ過ちを繰り返す可能性があるとみている。
トランプ氏は当時、攻撃の理由をほとんど説明せず、明確な出口戦略もないまま攻撃に踏み切った。
イスラエル国家安全保障研究所のイラン研究者であり、元イスラエル軍情報当局者のダニー・シトリノウィッツ氏はXへの投稿で「米政権がどれほど圧力をかけようと、どれほど新たな脅しを発しようと、イラン指導部が屈服する可能性は低い」と予想。「仮にトランプ氏が標的を拡大し続けるなら、イランも同様の形で報復する可能性が高い」と記した。