[北京 7日 ロイター] - 中国のバオ・チャンさん(30)はソフトウエアテスターの職を失った後、今年から配車アプリの運転手になった。中国は労働市場が低迷しており、ハイテク業界に復帰できる見込みはほとんどないと語る。

中国では不十分な失業保険、過去最多の卒業生数、さらに求人不足が雇用の機会を狭めており、数千万人が正規雇用からギグエコノミーへと移行している。このため、チャンさんのような事例がますます一般的になってきている。

チャンさんは「以前はタクシーに乗っていた人たちが、今では自分で運転しなければならなくなっている」と話す。北京で午前7時から深夜近くまで働き、自動車のレンタル料や充電費用を差し引いて約6000元(885ドル)の月収を得ている。

シンクタンクの中国新雇用形態研究センターの推計によると、フルタイムの正規雇用ではない非正規雇用者数は2025年に2億8000万人だったのが、26年には3億2000万人に増加すると推計している。これは米国の人口にほぼ匹敵し、中国の労働者数の約44%を占める。

アナリストらは、中国を襲った不動産危機が建設業の雇用を奪い、輸出品に課される関税、過剰生産能力、価格競争を背景に製造業が自動化やコスト削減を通じて従業員を減らす中で、ギグエコノミーは雇用の極めて重要な緩衝材となっていると指摘する。

国内需要の低迷や人工知能(AI)の導入によって追い詰められた高学歴の若者や、ホワイトカラー労働者の就労先として存在感を高めているのがギグエコノミーだ。

文化人類学を専門とする香港理工大の戦洋氏は「ギグワーカーの割合は極めて高い」とし、「もはや農村からの出稼ぎ労働者に限らず、中産階級や大学の卒業生にも広がっている」と説明する。

戦氏は「中国は製造業の高度化を進めており、かつて多くの労働者を吸収していた多くの産業が段階的に廃止されつつある。さらに、AIの出現も影響している」と話す。

他の地域と同じようにギグエコノミーは、正規の雇用を失った国民の収入の急減を緩和する役割を果たしている。

だが、中国のある政府顧問は、社会保険料の納付が義務付けられていないギグワーカーの台頭は、資金不足に陥っている社会保険制度の長期的なリスクを高めることになると警告する。

中国社会科学院が2019年に公表した報告書は、人口の高齢化に伴って35年までに国家年金基金が枯渇する可能性があると警鐘を鳴らしていた。24年の更新版は、定年退職年齢を引き上げることで枯渇時期を8―9年先送りできると解説した。

この政府顧問は、ギグワーカーの収入や契約は不安定なため「解決策を見つけるのは容易ではないかもしれない」とし、中国当局が正規のサービス産業を支援し、より良質な雇用を創出すべきだとの見解を示した。

<負担増大>

調査会社ガベカル・ドラゴノミクスの分析によると、社会保険予算の不足分を補うための政府支出は過去10年間に約3倍に膨らみ、約3兆元に達した。総支出に占める割合も2倍の10%となった。

別の政府顧問は、この負担を軽減する方法として、多くが農村からの出稼ぎ労働者で占められているギグワーカーへの課税を強化することは「極めて不合理」だと訴えた。この顧問は、出産手当の方が長期的な解決策として望ましいと指摘した。

ロイターが取材した12人のギグワーカーのうち、自発的に保険料を納めていると答えたのは2人だけだった。他に2人が、ギグワークとは別の正規のパートタイム職を通じて支払っていると答えた。残りは自分で貯蓄する方がいいと話した。

エンジェル・アンさん(24)は「他人が支払ってくれるのを数十年間も待つよりも、自分でコントロールする方が良い」と語る。アンさんは上海や近郊の蘇州で観光客向けのサービスを提供していることを交流サイト(SNS)でアピールし、配車サービスの平均的な運転手よりも高い収入を得ている。

HSBCアジアのエコノミスト、フレデリック・ノイマン氏は、ギグワークは多くの中国人が期待するような賃金や安定性をもたらしていないとし、そのことが消費と経済成長の足かせになると警告した。

ノイマン氏は「親の世代が長い間享受してきた安定感や自信を享受できない、全く新しい世代が育っている」と話す。

<低い加入率>

中国政府が2025年12月に公表した報告書によると、24年末時点で基礎的な退職給付制度を補完する都市部従業員年金制度に加入していたギガワーカーは約7060万人にとどまった。出稼ぎ労働者の大部分は月額163元という低額の給付しか受けられない基礎的な制度にわずかな金額を拠出しているだけだ。

年金や医療、労災、失業、出産、住宅といった全ての社会保険制度に拠出しているギグワーカーの人数の推計は示されていないが、極めて少ない可能性が高い。

北京大が3万人の配達員を対象に実施した調査によると、社会保険制度への支払いを義務化することを支持した人は10%未満だった。支払いが義務化された場合、従業員が収入の約10%、雇用主が約4分の1を社会保険料として負担することになる。

野村証券の中国担当チーフエコノミスト、陸挺氏は「当面の最優先課題は、ギグワーカーが従業員の社会保障制度に組み込まれやすくすることだ」と訴える。現在は完全に組み込まれているのは数千万人にとどまるとみている。

陸氏は「不安を低減しなければならない」と強調し、「そうすれば彼らが貯蓄を減らし、消費を増やすようになるからだ」と語った。

中国の失業率は過去10年間にわたって5―6%程度で推移しているが、週に1時間でも働けば「雇用されている」と見なされるため、ギグワークが失業率を抑える一助となってきた。

しかしながら、一部の分野ではギグワーカーの流入が需要を上回る傾向が強まっている。このため所得が鈍化している。

中国に1600万人のフードデリバリー配達員の収入が2025年に前年比11%増の1時間当たり平均37.3元に達した一方、3720万人の配車サービス運転手の賃金は1.8%減ったとの報告もある。

ハイテク産業が集積している深センを含めて少なくとも四つの都市が今年4月以降、配車サービス市場が「飽和」状態にあると警告している。

50代前半の清掃員のリーさんは、1日当たり40―100元の追加収入を得るために副業として午後10時まで食事の配達をしている。配達員の増加を受けて1件当たりの収入が圧迫されているのではないかと疑問視しているが、続ける以外に「選択肢はない」と打ち明ける。

リーさんは「この年齢で、学歴もない私が、他に何ができるというのか。北京では、大学生の大部分も食事の配達をしなければならなくなっている」と話した。

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