Tamiyuki Kihara Yoshifumi Takemoto
[東京 10日 ロイター] - 政府が7月中にも閣議決定する「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」が、金融政策の記述をめぐって混乱している。日銀の独立性を加筆する方針となった舞台裏を取材すると、足元の長期金利上昇や円安への配意をアピールしたい高市早苗首相の思惑が透けて見えた。ただ、複数の関係者は、政権方針は何ら変わっていないと語る。繰り返される「狂想曲」に、市場は冷ややかな目を向けているとの指摘もある。
<「市場はあらを探す」と片山財務相>
9日夕、内閣府、財務省の幹部らがひそかに都内の自民党本部を訪れた。訪ねた先は小林鷹之政務調査会長。議題は骨太の加筆だ。党関係者によると、「本文を変えることに高市首相は納得しないだろう」「市場の反応を抑える文言を入れる必要がある」などと意見が交わされ、最終的には本文を補足する注釈の欄に、「日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は、尊重されなければならない」とする日銀法第3条の理念を盛り込む方針が確認された。
当初、政府は6月30日に公表した原案の修正は考えていなかった。ところが、市場は想定以上の反応を示す。米国によるイラン攻撃に伴う原油高・インフレ懸念も後押しし、長期金利は上昇基調をたどった。米金利の上昇も相まって7月7日には新発10年国債利回りが前営業日比2.0ベーシスポイント(bp)上昇して2.850%と、1996年10月以来約30年ぶりの高水準を更新。9日には同2.900%をつけ、外国為替市場でも円が対ドルで162円台の円安・ドル高水準で推移した。
こうした一連の市場の動きに最も気を揉んだ閣僚の一人が片山さつき財務相兼金融相だ。複数の関係者によると、片山氏は高市氏や小林政調会長らと自ら連絡を取り、原案への加筆に向けて調整を進めたという。8日、片山氏は周辺に「市場はあらを探す。付け込まれないようにできればいい」と語った。
<「市場を抑えられるとは思わない」>
ただ、いくら多少の加筆をアピールしても、高市氏の政策方針が変わったわけではない。歴代政権の骨太に再三登場し、石破茂・前政権が策定した昨年版には10カ所で言及があった「財政健全化」の文字は消失した。主要部分には2040年度までの累計で370兆円を超える官民投資を想定し、国内民間設備投資を年230兆円、名目国内総生産(GDP)を1100兆円に近づける経済成長を目指すなど、積極財政政策が列記されている。こうした「強い経済」の実現には適切な金融政策運営が非常に重要だとする文言は、加筆後の原案にもその趣旨を残している。
政府関係者は、加筆したこと自体が政権の市場への配慮だと述べる一方、「高市氏の政策が何か変わったわけではない」と言い切った。あくまでも市場の反応に対応するためであり、自嘲気味に「これだけで市場を抑えられるとは思わない」とも語った。
<「消費減税、補正予算の時と同じ」>
高市氏が政策を打ち上げ、市場の反応を受けて弥縫策を講じるこうしたやり方は初めてではない。今年1月に突然の衆院解散に打って出た際には、それまで表立って進めてこなかった消費減税を党の公約に掲げた。2月の衆院選での圧勝を機に市場が反応すると、特別国会冒頭の施政方針演説では「特例公債(赤字国債)に頼ることなく」実施を目指す考えを強調。市場の沈静化を図った。
6月に成立した今年度補正予算の編成過程では、財源に特例公債を充てることが報じられると「前年度分の未発行となる範囲にとどめる」とのロジックを展開。市場に配慮する政権の姿勢をアピールした。
しかし、いずれも本来の政策方針に大きな変更が生じたわけではない。前出とは別の政府関係者は骨太の表現に右往左往する現状を、「消費減税、補正予算の時と同じだ」と嘆く。市場が求めているのは小手先の文言修正ではなく、財政の見通しだと強調。「いくら当たり前のことを加筆してもすでに市場から見透かされている」とした上で、「日銀の利上げ方針を『支持する』くらいのことを書かなければ意味がない」と語った。
片山氏は10日の閣議後会見で、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)など年金基金による国内投資を後押しする方針を表明。国内債券などへの投資拡大の連想から、市場は円高・債券高で反応した。ただ、前出の関係者は「市場を継続的に抑えるには十分な政策とは言えない。すぐに元の基調に戻るだろう」と語った。
<「財源の説明なければ市場は再び問題視」>
骨太をめぐるこれまでの動きを専門家はどう見ているのか。
SBI証券チーフ債券ストラテジストの道家映二氏は、政権が原案の加筆を決めた背景には、やはり長期金利の上昇があったと分析する。米の長期金利上昇に波及すればトランプ政権を刺激することになると指摘。「高市政権が重視する債務残高対GDP(国内総生産)比が経済成長率と金利で決まることもあって、今回の金利上昇には相当慌てたのだろう」と述べた。骨太に日銀の独立性が盛り込まれれば、「日銀の利上げのハードルは下がるはずだ」とも付言した。
加えて、10日朝の段階で長期金利が下落している点に触れ、骨太への加筆が報じられたことによるマーケットインパクトは「かなりあった。日銀の金融政策に関する高市政権への懸念は薄らいだ」とも語った。
一方で、このまま市場が落ち着きを取り戻すためには懸念もあると言う。消費税減税や官民投融資などの財源について、高市政権はまだ明確な説明をしていない点を強調。「財源の説明をせずに財政政策を進めれば、金融市場は再び問題視するだろう」と警告した。
(鬼原民幸、竹本能文 編集:橋本浩)