<欧州を襲う記録的な熱波は、多くの命を奪うだけではない。移民や格差を通じて社会の分断を深め、異常気象をめぐる陰謀論を広げることで、外国による情報操作(認知戦)の効果を高めている>

欧州の熱波が、毎年のように過去最悪を更新している。多くの人にとって、それは健康や防災の話題だろう。だが熱波は、もう一つの安全保障の課題ともつながっている。認知戦、つまり外国などが情報操作によって社会の見方や判断を揺さぶろうとする活動である。

熱波をもたらす気候変動は、二つの入り口から認知戦を後押しする。一つは、移民の増加と格差の拡大によって社会の分断を深め、情報操作がつけ込む隙を広げること。もう一つは、熱波や異常気象そのものが陰謀論のきっかけになり、国家に利用されることだ。

熱波がひどくなるほど、情報操作は効きやすくなる。以下では、まず熱波の被害の大きさを確かめ、この二つのつながりを順にたどったうえで、最後に日本について考えたい。

熱波という現実の規模

2026年6月、欧州は記録的な熱波に見舞われた。世界保健機関(WHO)は6月28日時点、6月21日以降の高温に関連した超過死亡が欧州全体で1,300人を超えたと発表した。超過死亡とは、平年の同時期に見込まれる死者数を上回った分を指す。

フランスでは前月までの平均と比べて約1,000人が上積みされ、その85%が65歳以上だった。

単発の夏だけを見れば、突出した災害には映りにくい。だが熱波は毎夏くり返される。バルセロナ世界保健研究所(ISGlobal)が医学誌ネイチャー・メディシンに発表した研究は、2022年夏(5月30日から9月4日)の欧州の熱関連死を61,672人と推計した。

国別ではイタリア18,010人、スペイン11,324人、ドイツ8,173人が多い。同じ研究グループは、2022年から2024年までの3夏で合わせて18万1,000人を超えると見積もっている。

この規模は、社会が多大な関心と資源を注いできた他の脅威と比べても際立つ。欧州刑事警察機構(ユーロポール)の集計では、EU域内のテロによる死者は、最も多かった2015年でも151人だった。2022年夏の熱関連死は、その約400倍にあたる。

欧州環境機関(EEA)によれば、1980年から2023年に欧州で記録された気象・気候の極端現象による死者の95%が熱波に関連する。科学者の国際共同研究グループ、ワールド・ウェザー・アトリビューションは、化石燃料の燃焼に伴う温暖化が欧州の熱波を数十年の間に著しく悪化させたと分析している。

熱波は例外的な異常気象ではなく、頻度と強度を増しながら反復する平年の現象になりつつある。

気候変動が広げる分断
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