Mariko Sakaguchi
[東京 8日 ロイター] - 円債市場では長期金利が一時2.865%と30年ぶりの高水準を更新、3%超えが意識され始めている。「骨太の方針」の記述にみられる政府の姿勢への懸念が背景にあるが、足元で日銀の政策が後手に回る「ビハインド・ザ・カーブ」への懸念はデータ上で高まっておらず、政府の財政政策への警戒感がより強い金利上昇圧力になっているとみられている。
<目立つ10年・20年債の金利上昇>
新発10年債利回り(長期金利)は8日、一時2.865%と96年以来30年ぶりの高水準を付けた。新発20年債利回りも一時3.850%と96年以来の高水準を更新。いずれも1週間超で20bp以上の上昇幅となる。
経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)の原案の文言から、高市早苗政権が日銀の利上げに慎重との受け止めが広がったことや、7月に取りまとめる成長戦略で2040年度までに官民で累計370兆円超を投資する構想を明らかにしたことが背景にある。
日銀の利上げ期待が高まる中で、海外勢など一部の市場参加者はフラットナーポジションを構築していたとみられ「(その)アンワインド(巻き戻し)が生じる形で、イールドカーブにスティープニング圧力がかかった」と、みずほ証券のマーケットアナリスト、松田祐樹氏はみる。
6月日銀短観は、貸し出しや設備投資など日銀による利上げの影響はみられず、強い内容だったと受け止められた。加えて、ドル/円相場が約40年ぶりの円安地合いで推移している。
高市政権が掲げる成長戦略での積極投資で今後、3%超の名目成長率が継続するなら「インフレにならざる得ない状況。日銀が独立性を保ち、政策金利は最低でも2%に引き上げるなど適切な水準にすることが必要だ」(国内銀の運用担当)との声が出ている。
<財政政策の不透明感>
もっとも、データをみると、ビハインド・ザ・カーブへの懸念は以前ほど高まっていないことが示唆される。
市場が予想するターミナルレートの指標となるオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)の2年先1カ月フォワード金利は、5月下旬に2.1%付近まで上昇したが、足元は2.0%付近にとどまっている。
LSEGのデータによると、期待インフレ率を示す指標の10年債ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)は足元1.9%前後で、1.8%台に低下した6月ごろからは水準を戻しているものの、5月下旬に付けた2.20%付近まで距離を残している。
ニッセイ基礎研究所の金融調査室長、福本勇樹氏は「日銀の政策姿勢に対しては市場は評価している一方、高市政権による財政拡張政策について憂慮していることが今回の金利上昇圧力の発端だ」とみる。
岡三証券のチーフ債券ストラテジスト、長谷川直也氏は、財政政策の先行き不透明感は投資家の手控えにつながりやすいと指摘。一方で、毎月の入札など供給イベントは続いていくとし、「需給が悪化していくとの警戒感が、さらに需要を抑制していくという悪循環に入りつつある」との見方を示す。
<長期金利3%到達しても金利低下は困難か>
円債市場では、金利上昇局面では打診買いに支えられる場面がある一方、その後、再び売り直されることを繰り返しており「新発10年債利回りは2.8%台が定着しつつある」(国内証券債券セールス担当)との見方も出ている。
城内実経済財政相が7日、骨太の方針原案を巡る金融市場の懸念は誤解と述べるなど、政権からのコミュニケーションはみられるが、8日の市場でも金利は上昇。市場では「財源は明示されず、言葉とは裏腹に実体が伴っていない。不確実性に対してリスクを取れない」(国内運用会社のファンドマネジャー)との受け止めだ。
富国生命保険の有価証券部部長兼資金債券グループ課長、大泉洋栄氏は「足元の長期金利は2.75―3%のレンジに引き上がっている」とし、「元のレンジに戻るような材料は乏しく、(長期金利は)3%に向かっている状況だ」との見方を示す。
長期金利が一気に3%まで到達した場合、「投資妙味が出始めるとみられ、いったんは買いが入る可能性はある」(前出の国内銀の運用担当)という。ただ、金利低下に転じるなどの地合い好転は難しいとの見方が大勢だ。
財政拡張政策への警戒感が継続するとみられ、今後は概算要求や秋の補正予算、来年度の予算案をにらみながら、投資家の手控えムードが継続しやすい。
ニッセイ基礎研の福本氏は、財政拡張政策に対して市場の信認が低下すれば、債券安と円安が同時に発生する可能性があると指摘。スパイラル的な物価高が長期化する懸念から、日銀の金融引き締め度合いが強まり、「リスクシナリオとして、長期金利が3%を超える可能性が意識されてもおかしくない」とみる。