動物最優先の理念も忘れなかった。種々のサルがより伸び伸びと過ごせる放飼場「おさるーむ」の増設をクラウドファンディングで実現。動物福祉を向上させつつ、「見せる展示」による来場者増にもつなげた。
2026年1月には「1年間やりきった、成果が出た」と相応の手応えを掴み、次の異動を見据えて引き継ぎの準備も始めていた安永さん。しかし、その先に待っていたのは、異動どころか、人生最大の怒濤の渦だった。
大谷翔平並みにバズった「パンチ」の衝撃
2026年2月、公式SNSに投稿したニホンザルの赤ちゃん「パンチ」の動画が、地球規模の「バズ」を巻き起こした。その熱狂ぶりは、「大谷翔平かパンチか」と思われるほど、連日メディアを賑わせた。
かつて同園では2008年、パンチと同様にぬいぐるみを抱いて人工哺育から群れに戻ったメスザルが、写真集を出すほどの人気を博した。だが、今回のパンチの爆発的な訴求力は、当時の比ではなかった。18年前にはなかったスマートフォンとSNSの普及、そして動画プラットフォームの拡散力が、パンチの魅力を世界中に瞬時に届けた。
「情報として短期間に大量消費されることは望んでいなかった」と安永さんは言う。だからこそ、群がるメディアの一斉取材は避けて時期をずらし、丁寧に園のスタンスを説明する戦略をとった。一過性のブームで終わらせず、多面的かつ長期的にパンチの成長を見守ってもらうための、緻密な情報統制策だった。
「週に1回、公式Xで出す飼育員からの報告は、世界中の『親(心を持つファン)』に向けた連絡帳。画面の向こうでドキドキ、ハラハラしながら待っている人たちがいる。そこでトップの私がオドオドしたり、自信なさげな態度を見せたりしたら、絶対に信頼されない」