Takahiko Wada
[東京 30日 ロイター] - 日銀審議委員に30日に就任した佐藤綾野氏について、市場は積極財政や金融緩和を支持する「リフレ派」とみており、追加利上げに慎重な姿勢を示すと予想する。現時点では、6月の金融政策決定会合で利上げに反対した浅田統一郎委員と合わせリフレ派は2人にとどまり、日銀の利上げ路線に影響はないとの見方が多い。一方、来年7月に任期満了となる高田創委員、田村直樹委員の後任次第では、利上げが難しくなるとの見方が出ている。
<利上げけん制強める政府>
今回就任した佐藤氏は、高市政権が任命した2人目の審議委員となる。佐藤氏は2023年2月に「責任ある積極財政を推進する議員連盟」の勉強会で講演、円安は「総合的に日本経済にプラス」と強調した上で、同年4月に日銀新総裁が就任しても「アベノミクスの方向でやっていってもらいたい」として、金融緩和の継続を支持した。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美チーフ債券ストラテジストは、佐藤氏が次回の利上げに反対する可能性が高いとみている。「高市首相からもそういう役割を期待されていると市場参加者は思っている」という。
佐藤氏と同時に審議委員としての人事案が国会で承認され、4月に就任した浅田氏は「リフレ派」としての存在感を発揮し始めている。6月の決定会合ではただ1人、「物価の上振れリスクよりも生産・雇用の下振れリスクの方が大きい」と主張、利上げに反対した。
足元では日銀の利上げ路線に対する政府のけん制が強まっている。政府が7月にまとめる経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)では、強い経済実現に向け「適切な金融政策運営が行われることも非常に重要」との認識を新たに示す。経済政策との整合性を規定する日銀法第4条や、政府・日銀による共同声明を踏まえ、政府と緊密に連携することを求める。
こうした中、オーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)では、2年先の1年フォワードレートが2%付近で高止まっている。
みずほ証券の河埜友飛マーケットアナリストは、ビハインド・ザ・カーブに陥るリスクが改めて意識され「ターミナルレートとして、2%付近まで利上げが必要になるのではないか」との見方が維持されていると指摘。原油価格が落ち着いてきているものの、企業物価上昇分の波及が一巡するまでは利上げ期待が維持されやすいとみる。
<来年の人事次第、利上げ打ち止めで残る円安圧力>
決定会合における票決は9人のボードメンバーの多数決による。日銀が利上げ継続路線を歩む中、2人のリフレ派が利上げに反対しても大きな影響はない。むしろ、来年の審議委員人事が「利上げを難しくする要因になりうる」(みずほ証券の河埜氏)との指摘がある。
来年7月には利上げを積極的に主張してきた高田委員と田村委員が任期満了を迎える。債券ストラテジスト出身の高田委員の後任にリフレ派が選ばれることで、「3人がリフレ派になる可能性が市場参加者の視野に入ってきている」(三井住友トラスト・アセットマネジメントの稲留克俊シニアストラテジスト)という。
田村委員はメガバンク出身のため、銀行出身者が後任となれば、その主張は田村委員同様、タカ派になるとの見方もあるが、今年の人事で審議委員が2人ともリフレ派になったこともあり、高田委員・田村委員の後任がセットでリフレ派になる可能性を意識する向きもある。
日銀では、金融政策を巡る議決が多数決である以上、1票でも上回れば問題はないとの見方がある。しかし、みずほ証の河埜氏は、9人のうち3人ないし4人がリフレ派となった場合、「あまり票が割れた状態で金融政策を決定し続けるのは今までの『慣例』から外れており、状況は変わってくるのではないか」と話す。
SBI新生銀行の森翔太郎シニアエコノミストは、日銀の政策金利の先行きについて、年内に1回、来年4―6月に1回それぞれ0.25%ずつ引き上げて1.5%で利上げが打ち止めになると予想している。「高市政権の意向を踏まえ、来年7月に審議委員が交代して政策委員会の構成が変化すれば、より利上げしにくくなる」と話す。
森氏は、高市政権の財政拡張路線や日銀の利上げけん制姿勢などから「市場参加者の円安観測は極めて強い」とみる。物価情勢次第で2%程度まで利上げする必要が生じる可能性があるが、審議委員の構成変化を受けて1.5%で打ち止めになった場合、円売り圧力が残ると予想している。