固有名詞も同じで、たとえば「中国」は、現代中国語ではZhōngguó、韓国語では중국(Jungguk)、ベトナム語ではTrungQuocと、なんとなく似てはいるが相当異なる。漢字文化圏の人名、地名はほとんど漢字なので、それを現地の発音ではなく、自国の漢字音で読むのが長い間の習慣であった。

ところがこれに異を称える意見が韓国から出て来た。たとえば私の名前、金文京は韓国語では김문경(Kim Mungyeong)である。それを勝手に日本でキンブンキョウ、中国でJīnWénjīngと読み替えるのは、固有名詞の独自性を無視するもので、個人の尊厳に対する冒瀆だと言うのである。

そこでそれまで東京は동경(Donggyeong)、北京は북경(Bukgyeong)と韓国漢字音だったのが、도쿄(Tokyo)、베이징(Beijing)とそれぞれの国の発音で表記することにした。それだけでなく1984年の全斗煥大統領訪日時に、日本にも同じ方法を採るよう要請し、今ではそれがほぼ定着している。

李在明大統領はイジェミョンでリザイメイとは読まれず、韓流スターにいたっては、テレビドラマ「チャングム」のイヨンエの漢字、李英愛にお目にかかることはまずない。

韓国のこの主張を仮に現地発音主義と呼ぶとすれば、それは日本ではすんなりと受け入れられ、同じ方法を中国の固有名詞にも適用し、たとえば魯迅をロジンではなく、ルーシュンと読むような動きも出ている。

 

金 文京(Bunkyo Kin)
1952年生まれ。京都大学大学院文学研究科中国文学語学専攻博士課程修了。慶應義塾大学助教授、京都大学教授、鶴見大学教授を歴任。専門は中国古典文学。著書に『三国志演義の世界』(東方書店)、『三国志の世界』(講談社)、『漢文と東アジア──訓読の文化圏』(岩波書店)などがある。

 

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