Howard Schneider Jacob Bogage

[ワシントン 25日 ロイター] - パウエル前米連邦準備理事会(FRB)議長は、トランプ米大統領にとって格好の「標的」だった。住宅ローン金利の高止まりから経済成長の鈍さまで、あらゆる不満の矛先を向けることができたからだ。

だが、ケビン・ウォーシュ氏が新議長に就任したことで構図は一変した。米経済政策の中枢ポストにトランプ氏の意向が広く反映される体制が整った形だ。パウエル氏については、第1次政権時に当時のムニューシン財務長官ら側近に押し付けられた人事だと主張する余地があった。しかしウォーシュ氏はトランプ氏自身が選んだ人物であり、成果も責任もトランプ氏自身が負うことになる。

その重みを示すかのように、トランプ氏は22日、ホワイトハウスでウォーシュ氏の宣誓式を開いた。トランプ氏は長いあいさつの中で、ウォーシュ氏に「自身の判断で職務を遂行し、優れた仕事をしてほしい」と語りかけた。

<中間選挙を前に高まるリスク>

トランプ氏は、物価を引き下げ、「生活のしやすさ」の問題に取り組むと訴えて2期の勝利を収めた。しかし、経済運営に対する支持率は大きく低下している。

ウォーシュ氏の宣誓式の直前に公表された米ミシガン大学による5月の消費者信頼感指数の確報値は44.8と、過去最低に落ち込んだ。中でも、目前に迫る中間選挙で鍵を握る無党派層に加え、共和党支持者の景況感までも、トランプ第2次政権で最低の水準に落ち込んだ。

30年固定住宅ローン金利は再び6.5%を上回り、9カ月ぶりの高水準となった。トランプ氏は選挙戦で、就任「初日」から物価を下げると約束していたが、政権下でも全般的な価格上昇は続いている。FRBが重視する経済指標の個人消費支出(PCE)価格指数は3月に前年同月より3.5%上昇し、伸び率は2023年5月以来、2年10カ月ぶりの高水準となった。

ガソリン価格も上昇している。トランプ氏が2月下旬にイランへの攻撃を開始する前は1ガロン=3ドル未満だったが、23日時点の全米平均は4.55ドルとなった。

ウォーシュ氏が就任後数カ月でどのような手腕を見せるかが、トランプ氏率いる共和党の中間選挙での勝敗にどの程度影響するかは、まだ見通せない。

ただ、高インフレは有権者の財布を直撃するため、現政権にとって常に逆風となる。一方で、インフレを抑えるには通常、利上げという苦い薬が必要になる。これもまた有権者に歓迎されにくく、ましてトランプ氏が受け入れるとは考えにくい。

さらに、FRBはそもそも権限が分散された組織であるため、新議長は時間をかけて自らの信頼を築かなければならない。その間、世界の市場関係者は、トランプ氏の影響力がどこまで及んでいるのかを見極めようとする。

保守系シンクタンク「アドバンシング・アメリカン・フリーダム」で経済政策を研究するリチャード・スターン氏は、「パウエル氏は、実際には彼と関係のない問題についても、トランプ氏にとって非常に都合の良いスケープゴートだった」と指摘する。だが今後は「トランプ氏自身の問題」とみなされるという。さらに、「有権者が最も懸念する物価高や生活費の問題は、トランプ氏やウォーシュ氏が何をしても、長期にわたって解消しそうにない」とした。

<一枚岩ではないFRBをどう動かすか>

パウエル氏は、トランプ氏によりFRBの独立性への信頼が損なわれるとの懸念から、FRB理事として残る道を選んだ。これも、ウォーシュ氏にとって就任当初から異例の要素となっている。

ポール・ボルカー氏やアラン・グリーンスパン氏のように、歴代議長の中には強い指導力を発揮した人物もいる。それでもFRBは、あえて扱いにくい構造に設計されている。7人の米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーと、12地区連銀の総裁が政策議論に参加するためだ。

近年の意思決定は、議長が合意形成を重視する方向に傾いてきた。これに対し、ウォーシュ氏はより率直で制限のない議論を好むと語っている。反対意見が増えることもいとわず、近年一般的だったフォワードガイダンス、つまり政策方針を事前に市場や国民に示す手法に頼らず、市場を驚かせるような政策判断も排除しない姿勢だ。

世界の投資家がこうした手法を受け入れる準備ができているかは、なお不透明だ。ただ、最近のFRB会合を見る限り、同僚たちはウォーシュ氏が承認公聴会で「好ましい」と語った「遠慮のない論戦」を演じる準備ができているようにも見える。

4月28─29日のFOMCでは、据え置き決定への賛成が8、反対が4と、1992年10月6日以来、最も大きく意見が割れた。

FRBが20日に公表した議事要旨によると、大半の政策担当者がインフレ率がFRBが目標とする2%を持続的に上回り続ければ「一定の金融引き締めが必要になる可能性がある」との見解を表明。これは、トランプ氏が最近まで期待していたこと、そしてウォーシュ氏自身が最近まで必要性を説いていた方向とは正反対だ。

次の政策判断を巡る議論は続くが、投資家の見方はすでに固まりつつあるようだ。強まるインフレを前に、金利は上昇せざるを得ない、という見立てだ。消費者の借り入れコストを左右する長期債利回りは、すでに上昇している。

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