大隅良典

東京科学大学 栄誉教授
大隅 良典(おおすみ・よしのり)

1945年、福岡県生まれ。67年東京大学教養学部卒業、74年同大学大学院の理学博士号を取得。米ロックフェラー大学博士研究員、東京大学理学部助手、同講師を経て、88年から同大学教養学部助教授。96年から岡崎国立共同研究機構・基礎生物学研究所教授。2009年から東京工業大学(現:東京科学大学)特任教授、14年からは同大学栄誉教授。13年トムソン・ロイター引用栄誉賞、16年ノーベル生理学・医学賞、17年生命科学ブレイクスルー賞など受賞多数。17年大隅基礎科学創成財団を設立。

 今のように国際情勢が不穏になると、基礎科学の研究費はまっさきに切り詰められがちです。

大隅 「研究費は現代社会において、どれぐらい必要なのか」という論点はありますよね。私たちも「研究者が自由にやることが許されるとしたら、いったい社会全体でどれぐらいの研究費がいるんだ」ということを見積もっていません。やみくもに研究費をつぎ込めばよいということでもないでしょう。

「こんなに色々な矛盾がある社会で、日本の社会が健全であるためにはどれぐらいの研究費が基礎研究に向かわないといけないのか」という議論をしなければならないと思います。

社会情勢に左右される「基礎科学を大事に」の機運

 高市政権になって国立大学の運営費交付金が9年ぶりに増額されました。最近、政府の科学研究や高等教育に対する空気が変わったと感じることはありましたか。

大隅 今回の政権が基礎科学を大事にするという方針はどこから出てきたのか、私はまだ十分に分析できていませんので、批判も評価もできない段階です。ただ、「基礎科学を大切に」と口に出してもらえたことは大変ありがたいですし、新しい変化です。「具体的にどのように研究費を配っていくのか」ということを今後は問われると思います。

たとえば、私がノーベル賞をもらったときは、多くの企業が「基礎科学の発展なくしては日本の企業は成り立たないから、これから基礎科学を大事にします」と表明してくれました。そういう方たちに支えられて、私たちの大隅基礎科学創成財団はスタートしました。

けれど残念ながら、経営者や企業のトップが変わると「基礎科学を大事に」と言ってくれる企業が減ってきてしまいました。

 スタートのときは大隅先生の理念を直接聞いているので賛同したけれど、トップが変わるとそこがちゃんと受け継がれなかったということですか。

大隅 それに、今のように激しく社会情勢が変化すると、やはりなかなかそういうことを言ってはいられないのでしょう。ただ、あんなに「基礎科学が大事」と言ってくれて私たちの財団の支援者だった企業ですらコロッと考えが変わり、だんだんその数が減ってくるというのは予想していなかったです。

ノーベル賞受賞者を見ても、今回2人の方(2025年ノーベル生理学・医学賞の坂口志文氏と同化学賞の北川進氏)が口をそろえて「基礎科学を大事にしましょう」と言ってくださったのですが、これは久しぶりのことです。「ノーベル賞は基礎科学を大事にするところから生まれてくる」というコンセプトが、それほどは広がらなかったと感じます。

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