<日本の科学行政・大学政策の問題点、若手研究者が基礎科学を志しにくくなっている今日の状況、基礎研究とAIの関係──2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典・東京科学大学栄誉教授はこれらをどう見ているのか。独占インタビューで聞いた>
ノーベル生理学・医学賞を2016年に受賞した大隅良典・東京科学大学栄誉教授は、現在も研究を続けながら、自ら17年に立ち上げた大隅基礎科学創成財団の理事長として基礎科学研究を支援しています。
支援の気持ちを実際の行動に変えるのは「言うは易く行うは難し」です。財団は毎年10数件、およそ6000万円の研究助成をし続け、今年で10期目をむかえます。
日本が基礎科学を軽視し、十分な研究費を配分しないことに危機感を持つ大隅教授は、競争的資金や研究者を取り巻く状況をどのように見ているのでしょうか。
ノーベル賞後の研究や財団の取り組みを紹介した前編に続き、今回は日本の科学および大学政策の問題点、基礎科学とAI、基礎科学を志す若者へのメッセージなどについて大いに語っていただきました。
【今回のテーマ】日本の科学・大学政策の問題点と若手が基礎科学を志さない理由
日本の科学政策の根幹にある「選択と集中」は基礎科学研究にどのような影響を及ぼしたのか。ノーベル賞を通じて「基礎科学は大事」という理念は本当に浸透したのか。若手研究者への支援は研究費を渡すだけでよいのか。基礎科学とAIの関係や、若手以外の研究者の深刻な研究環境についても聞いてみた。
世に出すために研究費の大半を使わないといけない
茜 日本の科学技術予算や大学政策は20年もの間「選択と集中」が行われてきました。いわば「勝ち組」と「負け組」を政府が決め、成果が見込まれるとか効率がよいとされたところに集中投資されています。そのような評価基準だと、基礎科学に競争的資金が配分されにくいことは明らかです。
大隅先生は、日本政府の基礎研究支援の問題点をどのように見ていらっしゃいますか。やはり他国と比べてもかなり手薄なのでしょうか。
大隅 全体として、基礎研究も昔よりお金がかかるようになっているということをなかなか理解してもらえないですね。
茜 それは装置の使用料などが高額になっていることが原因ですか。
大隅 それもありますが、今は一流誌に論文を掲載しようとすると100万円はかかるという馬鹿げた状況になっています。本当に困ったものですよ。自分が発見したことを世の中に問うのに研究費の大半を使わないといけない状況は、やはりおかしいですよね。
基礎研究は応用研究と比べて低予算でできるイメージがあるかもしれませんが、研究して発表するにはそれなりにお金がかかることを理解してもらわないと、「クラウドファンディングで100万円あげたのだから、これで十分でしょう? いったい何にお金かかるんですか?」ということになってしまいます。
研究者側もそのような状況をきちんと分析したり、発言したりということが欠けていたという反省点があります。ただ「お金がほしい」とだけ言っても仕方がないでしょう。何千万円という研究費がどこに消えるのか、どういう状況になったらもっと効率的に研究ができるのかという議論も、まだ十分されていないところがあります。
それでも世間に「研究というのは考えていればできるものというわけではないし、新しい科学が発展してくるとそれなりに研究費がいるのだ」と理解してもらいたいですね。