Gertrude Chavez-Dreyfuss
[ニューヨーク 19日 ロイター] - 米国債に対する最近の急激な売り(利回り急上昇)は、まだ幕切れには程遠い段階かもしれない。
物価の高止まりに金利見通しや投資家行動の変化が組み合わさることで、米国債は今後数週間にわたって圧力を受け続け、利回りがさらに跳ね上がる可能性がある、というのが複数のアナリストの見立てだ。
19日には10年債利回りが一時、昨年1月以来の高さを記録、直近では4.671%にあった。30年債利回りは一時2007年6月以来の水準に急騰し、直近では5.178%となった。
これまでの数カ月、多くの投資家は10年債利回りの4.5%を、購入に踏み切る魅力的な水準と見なしてきたが、利回りがその節目を突破したことで、次に買い手が現れる想定水準は軌道修正されている。
アメリベット・セキュリティーズの米金利戦略責任者を務めるグレゴリー・ファラネロ氏は「現在は少し不気味な状況であり、この売りは間違いなく続く可能性がある。雰囲気としてはコロナ禍に似ているとはいえ、当時は利上げではなく利下げの局面だった。そのため非常に厄介で、幾つかのテクニカルな要因も間違いなく影響している」と述べた。
INGのグローバル金利・債務戦略を統括するパドレイック・ガービー氏は、売りを加速させる根本的な要因を複数挙げた上で、10年債利回りは4.75%に向かっているとの見方を示した。
10年債利回り上昇は、借入コストの増大を通じて企業や消費者に重荷を与えるため、米国株にとっても試練となる。
利回りを押し上げている主な要因は、引き続きインフレだ。最近の消費者物価指数と生産者物価指数のデータはいずれも予想を上回っており、物価上昇圧力が市場の期待ほど早く和らいでいないという見方を裏付けている。特に5月のデータを含め、今後発表される指標によって、アナリストは物価が高止まりすると予想する。
米国債投資家は、物価が高止まりする、あるいはさらに上昇すると信じれば、購買力の低下を補うためにより高い利回りを要求することになる。
市場ベースの長期インフレ期待指標、いわゆる「ブレークイーブン・インフレ率」は、2週間前に期間10年で3年ぶりの高水準となる2.508%を付けた。
INGのガービー氏は、インフレ期待が2.6%や2.7%程度へとわずかに上昇するだけでも、利回りを顕著に押し上げる可能性があると予想。「そうなれば、利回りにはさらに10、20、30ベーシスポイント(bp)が容易に上乗せされるだろう」と付け加えた。
これは市場が持続的なインフレのリスクをまだ完全には織り込んでいない可能性を示唆している。投資家が今念頭に置き始めたのは、物価上昇が鈍化しない場合に米連邦準備理事会(FRB)が金利をより長く据え置く、あるいは利上げに踏み切る可能性だ。
投資家が利下げの可能性はなくなったという見方に順応するのに伴って、短期ゾーンの利回りが上昇した。
ブリンマー・トラストの債券部門ディレクター、ジム・バーンズ氏は、市場のムードが明らかに変わったと指摘するとともに「今は異なる金利環境にある」と言い切った。
バーンズ氏は「イラン情勢に関する好材料がなく、物価上昇圧力を示すデータが組み合わさったことで、米国債市場はまるでお手上げだと言わんばかりに(利回りを)より高い方向に再形成しなければならないと判断したようだ」と話す。
<長期債の苦境と海外の買い手>
長期ゾーンにおいても、状況は不透明に見える。
BNPパリバの米国金利戦略責任者を務めるグニート・ディングラ氏は、30年債利回りが5%を超えた時点で、事実上の明確な上限を失ったと分析した。
以前は特定の水準が歯止めとして機能する傾向があったが、それが一度突破されると利回りはより自由に動くようになる。
ディングラ氏は「アンカーがなくなった今、高い物価上昇率、拡大し続ける財政赤字、そして世界的な債券利回りへの上昇圧力という世界の中で、何が利回りの上昇を止めるのだろうか」と問いかけた。
同時に重要な要素となるのが米国債の買い手の構成だ。かつては対米貿易黒字を持つ国々の大規模な機関が、短期的な市場の動きに左右されない安定した購入者として存在した。
だが現在の買い手は著しく異なり、ディングラ氏によると、価格により敏感となっている。そうした買い手は英国、ベルギー、ケイマン諸島、ルクセンブルクといった金融センターに拠点を置くことが多く、これらの国々は世界中のさまざまなヘッジファンドの米国債の主要な保管拠点として機能しており、米国債保有国の上位7位に入っている。
例えば英国は昨年3月に中国を抜き、米国債の第2位の保有国となり、現在は9000億ドル近くを持っている。
ディングラ氏はこの変化について、以前のように利回りが上昇しても自動的に買い手を呼び込むわけではないことを意味すると説明する。投資家はより慎重で選別的になっていて、需要が回復する前に利回りがさらに上昇する可能性があり、持続的な下限が見つかる前に、より高い水準が試されてもおかしくないという。
INGのガービー氏は「(利回り上昇は)終わっていない。今はまだ5月で、物価上昇率はさらに高くなるだろう」と警告した。