Howard Schneider
[ワシントン 15日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)のケビン・ウォーシュ次期議長がFRBの保有資産(バランスシート)を圧縮して金融市場への「関与」を弱めようとしている計画について、アナリストらは連邦債務の増加と米国債の魅力低下が制約になるとの見方を示した。ウォーシュ氏は早くも、長期金利上昇の課題に直面している。
金融政策の指標とされる2年物国債の利回りは15日に4%超を付けて、イランとの戦争開始以降の上昇幅が0.5%ポイントを超えた。また、30年物国債の利回りは5.1%を超え、2007年から09年にかけての金融危機と景気後退以来では持続的には見られなかった高水準を付けた。
投資家らはFRBが早ければ来年1月にも利上げすると見込んでおり、インフレ率に連動する債券利回りも上昇している。この傾向が続けば、FRBにとって特に厄介な事態となる。
議会上院が13日に承認したウォーシュ氏はインフレ率の抑制に焦点をより絞ることで、市場のゆがみを回避できると考える従来型の金融政策に回帰する姿勢を示している。その一環として中央銀行の役割の縮小と、市場介入の抑制を提唱してきた。
スタンフォード大経営大学院のハンノ・ルスティグ教授(金融学)は、このアプローチは理論上魅力的なものの、米国債市場のギャップを露呈する可能性もあると指摘。そうなれば長期金利が上昇し、企業と家計、そして政府に悪影響を及ぼすか、FRBが介入して借入コストの抑制に動くように圧力がかかることになるとの見方を示した。
ルスティグ氏の最近の研究は、米国のような主要先進国市場は「便宜収益」を失っていることを示唆した。ルスティグ氏は、ウォーシュ氏や他のFRB当局者が「これに先手を打つのならば、利回りが財政ショックに反応している際には『これは国債市場のちょっとした乱れだ』と言うのではなく、その点について透明性を保たなければならない」とし、「国債市場での本当の価値を見いだすには、介入しない中央銀行が必要だ」と訴えた。
ウォーシュ氏は06―11年のFRB理事在任中から、中銀がどのような証券をどの程度の量買い入れるべきかや、その後保有高をどのように削減するかという明確な指針や計画を立てずに保有資産を拡大してきたことに対して批判的だ。
FRBの保有資産は、金利が上昇し始める前に銀行システムがどれだけの流動性を必要としているかを試す金融の黒魔術と、新型コロナウイルス禍や07―09年の金融危機と景気後退といった出来事に対する手当たり次第の対応が組み合わさって増減を繰り返してきた。
FRBの現在の資産残高は6兆7000億ドル規模で、ピークだった22年の9兆ドル規模から減少している。ただし、銀行の準備金を潤沢に保つために再び緩やかに伸びている。
「量的緩和」として知られるFRBの債券購入が経済にどのような影響を与えるかについては、広範な合意を得られていないままだ。
FRBは金融政策の決定を通常、消費者や企業の借り入れコストに影響を与える短期金利の引き上げや引き下げに限定している。インフレ率が上昇している際には金利を引き上げて支出を抑制し、景気低迷時には金利引き下げて支出を促進する。
しかし、経済危機が直撃した場合などにゼロ金利に設定し、それ以上引き下げられなくなった場合には理論上無制限のバランスシートを活用して介入できる。FRBが購入する資産は金融システムから流出する代わりに現金に置き換えられるため、長期金利がさらに低下し、消費を促進して経済を下支えする。
<他の課題>
FRBの政策担当者らは、こうした政策が少なくともある程度機能するという見方でおおむね一致している。
だが、元FRB上級顧問のエレン・ミード米デューク大教授(経済学)は「バランスシートの活用方法や、適用条件について議論すべき時期を既に過ぎている」とし、「それは9―12カ月を要するプロセスで、スタッフによるメモやブリーフィング、委員会での議論を経て合意に至るものだ」と指摘する。
ところが、保有資産の圧縮と金利の抑制の両方を目的とする場合、米財務省との緊密な連携が通常よりも必要になる可能性がある。FRBが保有資産を圧縮する中で、財務省の国債発行の決定が金利に影響を与える恐れがあるためだ。
元FRB職員で、現在はバンク・ポリシー・インスティテュートのチーフエコノミストを務めるビル・ネルソン氏は最近、FRBが規制上の変更などを通じて保有資産をさらに2兆ドル縮小した場合、その手法や財務省の反応によって政策金利への影響が大きく左右され、0.84%ポイントの利下げから利上げの可能性に至るまでの影響が生じると分析した。
FRBのクリストファー・ウォーラー理事は、FRBが資産を大量に保有するのは銀行に十分な流動性を供給するためだと言及。金融機関が準備金を奪い合うような水準まで保有資産を縮小する案は「極めて非効率的で、愚かなことだ」と切り捨てた。
ブルッキングス研究所がFRB幹部や経済アナリストを対象に実施した最近の調査では、回答者29人の大部分がFRBの保有資産の規模は「現時点では米経済の成長や、金融の安定性で問題にはならない」と答えた。
こうした問題に加え、より広範な債務の動向がFRBを取り巻く状況をさらに厳しくする可能性がある。米議会予算局(CBO)の推計によると、2026会計年度(25年10月―26年9月)の連邦政府の財政赤字は国内総生産(GDP)の5.8%に達すると見込まれ、過去50年間の平均の3.8%を上回る。
セントルイス地区連銀が実施した金利に関する調査でも、「リスクフリー」とされる国債などが利回りの優位性を失いつつあるとの結論が示された。調査によると、22年にFRBが保有資産縮小を始めた際、便宜収益が約40ベーシスポイント(bp)低下したことが判明した。これは米国が資金調達のために、投資家にそれだけ多くの利子を支払わなければならなくなったことを意味する。
ウォーシュ氏が保有資産をさらに縮小するためには、その影響をどのように打ち消すかを考え出すか、巨額の財政赤字に伴うコストだと説明しなければならないだろう。後者の場合、ウォーシュ氏がこれまで批判してきた財政問題への「任務の拡大」に近い立場に立たされることになる。
ウォーシュ氏がFRB理事を務めていた時期にリッチモンド地区連銀総裁だったジェフリー・ラッカー氏は、ウォーシュ氏の保有資産縮小への意欲はより抑制的なFRB運営を求める人々の間で「強く共感を呼んでいる」と言及した。ただし、実現するにはFRBの枠を超えた規律が必要になると指摘した。
ラッカー氏は「FRBが債務管理に相当する業務から手を引くことは、市場参加者の期待感を明確にし、国債市場をより強じんにする一助となるだろう」と語った。