Manishi Raychaudhuri
[香港 18日 ロイター] - 「チャイナ・イズ・バック(中国は戻ってきた)」というフレーズが投資家の間からしばしば聞こえてくる。産業の基盤となる人工知能(AI)企業の成功や、3年にわたるデフレ的停滞からの経済回復がその根拠だが、中国株で銘柄選択を行うのが難しいのは今も同じだ。
確かに、中国経済は低迷から脱しつつあるように見える。第1・四半期の実質国内総生産(GDP)成長率は前年同期比5.0%となり、3年ぶりの低水準だった昨年第4・四半期の4.5%を上回った。背景には製造業と輸出の好調がある。個人消費はまだら模様で、不動産市場はなお低迷しているものの、ハイテク製造業がこうした下押し圧力を相殺しつつある。
過去10年にわたって先端技術やグリーンエネルギー、高付加価値製造業への投資を通じて経済の高度化を図ってきた中国政府の取り組みは明確に実を結んでおり、こうした成果は中国の株式市場にも表れている。
香港上場株で5月中旬までに市場をアウトパフォームした8セクターのうち「資本財・工業」、「テクノロジー」、「素材・プロセス産業」の3つはいずれも政府が掲げる重点政策の中核に位置している。
しかし同一セクター内でもパフォーマンスには大きなばらつきがある。中国の電気自動車(EV)メーカーでは、BYD(比亜迪)と吉利汽車(ジーリー)の最大手2社が、高価格帯モデルと輸出の伸びを支えに、株価がそれぞれ年初から5月中旬までで2%、19%上昇した。半面、規模で劣る小米(シャオミ)と小鵬汽車(シャオペン)は、価格競争の激化に伴う利益率低下懸念が響き、株価が20%余り下落した。
言うまでもなく、AIは中国政府の最重要政策分野の1つであり、株式市場を動かす主役でもある。ただし、ここでも注意が必要で「AIの敗者」が現れ始めている。
2026年初頭に米新興企業アンソロピック社のAIプラットフォーム「クロード・ミュトス」が登場すると、旅行サイトのトリップ・ドットコム・グループや音楽配信の騰訊音楽娯楽集団(テンセント・ミュージック・エンターテインメント・グループ)など旅行やオンライン音楽分野の企業は株価が急落し、今も持ち直していない。
また政策支援を受けているはずの分野でも低調な銘柄がある。テンセントや稀宇科技、百度などのAI企業を擁するテクノロジーサービスセクターは、5月15日時点で年初来17%下落している。開発コストの高さ、激しい競争、短期的な収益性への懸念が投資家の不安を招いているためだ。
市場のリーダー的な銘柄に投資すれば安心というわけでもない。半導体受託生産最大手、中芯国際集成電路製造(SMIC)は、大規模な設備投資負担への懸念から年初来で5%超の下落となった一方、競合する華虹半導体は56%も上昇している。
<過当競争への対処>
ここ1年ほど中国政府の重要課題の1つとなっているのが、企業などが過当競争で消耗戦に陥る「内巻」の抑制だ。しかしその成果はまちまちで、投資家にとっては機会とリスクの双方を生み出している。
EV業界はその典型例だ。
当局が激しい値下げ競争の停止を呼びかけてからほぼ1年が経過したが、なお値引きが続いている。26年を通じて主要メーカーは10%ないし15%値下げしており、その背景には深刻な過剰生産能力と自動車販売の低迷がある。
したがって投資家は「内巻の敗者」、つまりこの過当競争の影響を強く受け続ける企業を避けたいと考えるだろう。しかしそれを見極めるのは容易ではない。
戦略の1つは、国内市場の利益率低下圧力を、高付加価値な輸出で相殺している企業を選ぶことだ。この点で吉利とBYDは注目に値する。両社とも近年、海外展開を急速に進めており、26年第1・四半期にはBYDの輸出が前年同期比56%増、吉利は126%増と大幅に伸びている。
もっとも、この戦略を成功させるには、貿易摩擦の高まりなど地政学的リスクを乗り越える必要がある。海外に生産拠点を設置し、国際市場を重視する企業は、貿易障壁を回避しつつ、グローバル市場の利益を取り込める可能性があり、需要が伸び悩む中国国内市場での「消耗戦」に巻き込まれるリスクを抑えられそうだ。
例えばBYDは、ハンガリー、ブラジル、トルコ、タイに工場を展開している。吉利も欧州に工場を持ち、メキシコでの買収も計画中だ。車載電池大手の寧徳時代新能源科技(CATL)も同様にハンガリーにギガファクトリーを建設し、この流れに乗っている。
<政策の効果>
効率化やイノベーション促進といった中国政府の政策は他の分野でも成果を上げている。例えば太陽光発電業界では、政府主導の合従連衡が進み、40社を超える中小企業が倒産または買収によって市場から退出。過剰状態だった業界が整理され、垂直統合型の大手企業の株価が上昇する要因となり、太陽光パネル製造世界首位の晶科能源(ジンコソーラー)は株価が過去1年で20%余りも上昇している。
バイオテクノロジー分野でも変化が見られる。国家薬品監督管理局(NMPA)は24年7月に承認審査の迅速化を進め、医薬品規制調和国際会議(ICH)など国際基準との整合性を高めた。その結果、臨床試験のスピードが加速し、中国企業が開発した医薬品を海外製薬会社にライセンス供与する案件が増加。中国のバイオ関連上場投資信託(ETF)は今年に入って株価が大幅に上昇している。
中国市場に持続的な成長要因が数多く存在するのは間違いない。しかし同時にリスクを軽視してはならない。米国との地政学的緊張の高まりは、関税引き上げや輸出規制強化につながる可能性がある。また過当競争は、競争の抑制が進む分野でも再燃する恐れがある。
中国は確かに復調の兆しを見せている。しかし政策やニュースに左右されやすい不安定さが消えたわけではない。つまり投資家は慎重な姿勢を保ち、デューデリジェンス(精査)を怠るべきではない。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)