<米新興企業への特権付与で、EU加盟を悲願とするボスニア・ヘルツェゴビナが岐路に立たされている>
目下、バルカン半島のボスニア・ヘルツェゴビナを舞台に、欧州連合(EU)とアメリカの亀裂が深まり始めている。大変静かだが、なんとも不気味な印象を与えるものだ。
発端は、同国のエネルギー安全保障を左右するガスパイプラインの建設プロジェクトである。
この巨大プロジェクトの投資家兼開発事業者に指定されたのは、ドナルド・トランプ大統領に近い2人の人物が率いる新興企業だった。2025年11月に米ワイオミング州に設立された「AAFSインフラストラクチャー・アンド・エナジー(AAFS)」である。
しかも、本来は必要なはずの公開競争入札を行わなかった。推定15億ドル規模のビジネスが、不透明なプロセスのまま、国家元首に近い人物によるアメリカ企業へと渡ったのである。
EUは「透明性とルールの遵守」を理由に反発している。
脱ロシアで「欧」と「米」の摩擦が加速
問題の背景には、ウクライナ戦争でバルカンにおけるロシアの影響力が衰えたことがある。
EUは今年1月、2027年11月までに、ロシア産のガスを段階的に輸入停止する法律を制定した。このことが、歴史的と言えるほどバルカンの勢力図を変えようとしている。
ボスニア・ヘルツェゴビナ(BiH)。人口約310万人、サラエボが首都のこの国連加盟国は、今までロシア産ガスに100%依存してきた。しかもルートは1つしかない。ロシアからトルコ、ブルガリア、セルビアを経由して同国に届く。
通過するブルガリアはEU加盟国であるため、このルートは役割を終えようとしている。そのために同国は別の供給源を求めることが必須となっていた。
特に有力なのは、アメリカからやってくる液化天然ガス(LNG)だ。EU加盟国である隣国クロアチアのクルク島のターミナルに到着する。