生前の茶道裏千家前家元の千玄室さんは、「丸い茶碗のなかの地球」と銘打った対談で、茶道における「間(ま)」の重要性を語り、「自分たちのことだけでなく、ちょっと間を置いて相手のことを考える」大切さを説いた。
世界各地を巡り、一盌(いちわん)のお茶を通して相手と膝を突き合わせて対話型の平和外交をしてきた千玄室さんは、メタバースの茶会などが行われた今回の万博のあり方にはやや思うところもあったかもしれない。万博開幕前にある会合で会った時もまだまだ意気軒高で「テクノロジーや食だけでなく、日本の文化に宿るピースフルネスのメッセージをもっと伝えていくべきと思うんやけどね」と話していた。
万博では各国が文明や技術の進歩を発信したが、紛争や対立が続く世界の現状を見ると、人類は進歩しているといえるのか。日本の伝統文化と共に特攻などの戦争体験を語り継ぎ、文明間対話を茶の湯の現場で実践してきた立場から万博後の世界をどう評価するか。平和という文言を安易に使うことを嫌い、自らの言葉で語り続けた大宗匠の話をもう聞けないのは残念でならない。
日本国際博覧会協会副会長の華道家元池坊次期家元の池坊専好さんもインタビューで、万博のテーマにも掲げられた「いのち」の大切さといけばなの共通点や、「道」「修行」を伝承する組織を率いる重責、稽古人口の確保などの課題を語った。
少子高齢化が進み、日本の伝統文化も、多様でグローバルな人材に次代を託していかなければ、継承も発信も立ちゆかない。担い手や発信者の育成は容易ではないが、文化も、政治や経済と切り離せず、こうした研究者とアクターやプレイヤーが連携した「学」と「芸」を結ぶ議論から光が見えてくるかもしれない。
食文化もテーマの一つで、京都の料亭菊乃井三代目主人の村田吉弘さんがコラムを寄せ、「外国でアレンジされた日本料理を批判したり、否定したりするのは簡単だが否定の先に未来はない」と主張、日本の料理人にはないアイデアや工夫が学びになる、と指摘した。
著書『ほんまに「おいしい」って何やろ?』(集英社)で昨今の美食ブームを痛烈に批評し、海藻など日本の食材の価値向上に取り組む日本料理界のご意見番だけに、保守派の論陣を張るかと思いきや、和食の国際化には寛容でリベラルな立ち位置というのも面白い。
世界各地のシェフたちと交流して日本の食文化を発信し、日本料理アカデミーなどで外国人の研修も受け入れてきた実践者だけに、海外の門下生たちへの思い入れもあるだろう。
特集に関連して同志社大で行われたトークイベントでも、村田さんと、共に和食のユネスコ無形文化遺産登録に力を注いだ歴史学者の熊倉功夫さんが、日本の伝統的な食文化が失われつつある現状を憂いつつも、日本文化における「間」の意味を再考し、温故知新を受け継ぐ次世代に期待する姿は印象的だった。
また、特集で、米国の「エミー賞」を受賞したテレビドラマ「SHOGUN」で時代考証を担当した国際日本文化研究センター教授のフレデリック・クレインスさんは、サムライ文化を描いた映画や小説を例に、日本文化の表象もステレオタイプ的な歴史認識を超え、史実に忠実な文化理解に基づく描写が必要だと論じた。